エース隊長とたまにシリアスになる 地平線からゆっくりとゆっくりと太陽が顔を出すのをじっと見ていた。空の薄紫と太陽の暖かな橙色が混ざりあっていく様は何度見ても飽きない。薄紫なのか橙色なのか解らない、区別のつかない曖昧な不思議な色は海をも染めていた。私の視界に映る世界は薄暗いような、明るいような、曖昧で滑稽でそれでいて酷く愛しい、美しい世界だった。それは彼に似ていると思った。 「朝はやっぱり冷えるな。」 彼はそう言ってふかふかのブランケットを私の肩に掛けてくれた。太陽はもう既に半分顔を出していて、辺りはだんだんと明るいのが勝っていた。カモメたちが頭上をすいすいと飛びながら、日の出に向かっていくのがぼんやりと視界に入った。隣に腰を掛けている彼に視線を移した。太陽の光がかれの横顔を鮮やかに照らし出していた。 「皆まだ寝てるかな。」 「寝てるだろ。お前と俺ぐらいだぜ、こんな朝早く起きてるのは。」 「そっか。」 こうしているとまるで世界に二人だけしかいないようで、寂しいような、嬉しいような、不思議な気持ちになった。カモメたちはもう太陽の彼方に消えてしまった。無音、静寂の世界。微かに波の音が聞こえてくるのが、世界はまだ生きていると確認できる唯一の音だった。だがその波の音さえ時々途切れた。波の音が途切れる度に、鼓動が速まっていくのが解った。怖かった。世界が全て止まってしまったかのようだ。それが無性に、恐ろしくて堪らなかった。 「こうしていると、まるで世界が止まっちゃったみたいで少し寂しい。」 小さく呟くようにそう言えば、彼は私の目を見た後に、ふ、と笑った。 「止まらねえよ。止まちまっても、俺がいるから怖くねえだろ。」 くすぐったい彼の言葉に腹の底が疼いた気がした。素直に嬉しかった。恐くなったら、彼を思いだそう。そうすればもう怖くなんか無い。彼の傍にいればちっとも寂しくない。ふと視線を前にすれば、太陽がもうほとんど顔を出していた。本当になんて美しいんだろう。 「……そうだね。エースがいればちっとも寂しくないし、恐くないよ。」 私のいるこの残酷で無音の世界はたまに優しい顔を出すから、私はまだ生きていけると思えてしまう。 2011.01.29. 2015.07.25.加筆. |