ラッキースケベのチャンスを逃さないエース隊長 兎に角逃げ切ろうという一心で、適当に開けた扉がなんとも微妙な部屋であった。見慣れたテンガロンハットが簡素な使われることの少ない机の上に置いてあるのを見て、正直入ることを躊躇ったのであるが、この際しようがないと腹を括り扉を締めた。とは言え本当に荷物の少ない部屋で、箪笥やカーテンの影にでも隠れ場所があったならば良かったのだが、それがないものだからはて困った。こうしている間にも血眼になって奴らは私を捉えようと走っていることだろう。間遠にドアをガチャガチャ開けている音が聞こえて、もう少しでこちらにも来てしまうことは間違いなかった。兎に角背に腹はかえられない。私はややためらいつつもベッドの横でブランケットにくるまりながら静かに体を上下させる人物の中に潜り込んだ。どうせ寝ているんだし、この男は尋常じゃなく寝つきがいいのだから騒がねばバレるまい。 「すんませーん、エース隊長、なまえのやつ見かけませんでしたかーって……寝てる?」 「……んん、なんだ。」 ああ、やばい。息がまともに出来ず、苦しくて身体を動かしたら小さく「動くな」と言われて、私を抱き締めていた腕の力が強まった。私は大人しく厚い胸板に頬をぎゅうとつけた。目だけ動かして彼の表情を見ようとしたが、ブランケットの中ではそれが見えなかったので、この男の心の内が読めずただただこの体の熱さに困惑していた。 「あ、すみません。起こしちまいましたか。」 「いや、今起きたとこだ。なまえがどうした。」 「あいつ、今日も甲板の掃除当番サボりやがったんで、捕まえようとしたんすけどまた逃げられちまったみたいで。」 「相変わらず馬鹿だな。」 「全く。」 馬鹿とは心外だが、今この状態では反論もできない。そろそろ隊長の匂いで胸と肺がいっぱいいっぱいになりそうだ。 「とりあえずこっちには来てねえけど、見かけたら甲板に行くよう言っとくぜ。」 「すんません、頼みます。」 そう言うとクルーは男の安らかな睡眠を妨げたことに再び侘びを入れて律儀に扉を閉めて行ってしまった。勿論、彼は隊長であるこの人が嘘をついているなどとは微塵も疑ってなどいないであろうし、まさか目当ての私が目の前にいただなんて、思ってもみないはずだ。私は彼等の足音が聞こえなくなるのを確認すると、やっとブランケットの中から脱出した。 「はあ、息が辛かったー。エース隊長、ありがとうございました。」 「しょうもねえ奴だな。」 「甲板掃除疲れるんだもん、お花の水遣りとかだったら喜んでやるんですけど。」 「わがままか。」 「えへへ。でも、本当に助かりました。じゃあ、私はこれで、」 そう言って軽く会釈をしてベッドから離れようとした瞬間、何故か手首を隊長に掴まれて、凄い力で引っ張られた。自然と身体がまた再び隊長のもとへと戻ってしまった。背中にじんわりとした傷みが走った。え、まさかこの後に及んで引き渡すつもりか、と勘ぐったが、どうやら違うらしいことが分かったのは、隊長の不敵な笑みを見たからである。ある意味、引き渡されるよりも厄介事に巻き込まれるかもしれないという私の本能が警鐘を鳴らす。 「なまえ、俺がタダでこんなことすると思ったのか?」 「はい?」 「協力してやったお礼とかねェのかよ?」 「ありがとうございます。」 「言葉以外にはねえのかよ。」 「えー。」 どうしよう、お金渡せばいいのかな、と困っていれば、隊長は再びニッコリと笑ったかと思えば、突然私に覆い被さるような体勢をとり、顔を近づけてきた。胸が圧迫されてまた息苦しさが蘇った。シーツも、枕もエース隊長のいい香りでいっぱいでくらりと目眩さえしそうだ。ていうかなぜこうなった。 「た、隊長、何をっ……。」 「お前どうせ金持ってねえだろうし、」 「そうですが……」 「まあ、最初から金なんか期待してねえしいらねえけど。」 「はあ、」 「兎に角俺はお前を助けたしな。とりあえず、ギブアンドテイクだ。」 「なにを、んむっ」 突然キスされたと思ったら、男のその手は胸を柔く這い始める。 「ちょ、隊長!寝起きで寝ぼけてるんですか!?」 「寝起きだから体力あるし大丈夫だろ。」 「そういう問題じゃない!睡眠欲の次は性欲を満たす気かコイツ!」 これじゃどっちにしろ疲れるじゃないか。 2010.08.18. 2015.07.25.加筆. |