3 「寝てた!」 「知ってます。」 目を開ければ其処には呆れたように笑っているなまえが居た。驚いたと同時に、何故なまえが目の前に居るんだという疑問で頭がいっぱいになる。寝起きの頭を無理矢理フル回転させて、自分が眠ってしまう前のことを思い出そうと必死に努めた。 ・。 。 ・。 「なまえ、」 甲板で何時ものように眠そうな顔でゴロゴロして暇を潰していたなまえの名を呼べば、なまえは相変わらずトロンとした瞳で俺を見詰めた。(くそ、可愛いいな…っ!)と心の奥の奥で思ったが必死に堪えてポーカーフェイスを装い近づくと、隣に座った。 「あとちょっとで次の島に着くみたいですね。」 「ああ、そうだな。」 「……………。」 「……………。」 隣に座ったはいいものの、緊張し過ぎて口が開かなかった。というのも、一緒の空間に、しかも肩を並べて仲良く座っているというだけで俺の中では僥倖なので、何も言い出せなかったのだ。せっかく天気もいいし、次の島へ着いたら一緒に散歩にでも行こうと誘いたいというのに、なかなか言い出せない。心の中で悶々しながらどうしたものかと考えていると、なまえから口を開いた。 「隊長、実は隊長に話したいことがあります。」 「話し?」 「はい。ですから次の島に着いたら一緒にご飯食べに行きませんか?」 「はっ!?」 「あ、何か用事ありました?」 「いや、何もねえよ、」 何を話すかと思えば、なまえから誘ってきたので驚いたと同時に、嬉しくて堪らなかった。本当は今にも叫んでしまいたい気分なのだが、此処は堪えてポーカーフェイスを保ちつつ何事もないかのように振る舞った。 「まあ、その、なんだ。やることもねえし、付き合ってやるよ。」 「そうですか。良かった。」 なまえはそう言ってにぱりと笑った。(くそ、可愛ry)と本日何度目かわからない声にならぬ叫びを押し殺しつつ、顔には出さずにその場を収めた。島に着くと他のクルーにはちょっと用があるからと言ってなまえと一緒に船から出た。後ろからは「ついにデートか!」とか「初デートか!」とか下らない冷やかしの言葉が聞こえてきたがご機嫌だったので今回は見逃して燃やさなかった。この調子ならいける気がするのだ。多分。そして町にあったバーに入り、いざなまえと一緒に食事でもしようとした矢先、ぷつんっと糸が切れてしまったかのように其処で綺麗に記憶がなくなっていた。ああ、そうだ、やっと思い出した。 ・。 。 ・。 「思い出した。」 「それは良かった。」 「そう言えばお前、俺に話があるとかないとか言ってたな。」 「はい、そうなんです。」 真っ直ぐに俺の目を見てなまえは言うと、いつになく真剣な表情になった。俺は突然のことで心臓がどきりと跳ね、目を反らすことさえ出来ずに、ひたすらなまえを見詰めていた。ああ、睫毛なげーなとか、可愛いなーしか浮かばない。 「あの、前々から思っていたんですが………、」 「お、おう」 まさか、こ、告白か?そうなのか?甘い妄想と期待が頭の中で、複雑に絡み合って自然と鼓動を速めた。もしかして、いや、もしかするとなまえは俺のことを好きなのかもしれない。所謂、両思いってやつだ。ベタな恋愛漫画や小説はこっぱずかしい上好きではないが、なまえとなら話は別だ。寧ろこんな展開は嬉しすぎる。しかし、女の方から言わせるのも格好がつくまい。ここは俺が先に言わねば気がすまないのだ。 「なまえ、俺はっ「いつも親父を独り占めしててごめんなさい!」 「…………は?」 「前からなんとなく勘付いてはいたんですけど、親父は皆の親父ですもんね。独り占めばっかりしてて、隊長、怒ってたんですよね、本当にごめんなさい。」 丁寧に謝罪の言葉を述べた後、なまえは小さくお辞儀をした。俺はただただその様子を目で追っていた。そんななまえの姿をみていたら急に切なくなって妙に呼吸が苦しくなった気がして、ただ呆然としていた。なんだかどっと疲労感が押し寄せてくる。 「……隊長?」 「……いや、うん…。」 もう泣きたい。 2015.07.22.加筆. |