天使アルミンに注意される 先程から視界の端で何やら懸命にやっていると思えば、彼女は突然視線を寄越した。突然のことで少しだけ驚いてえ、と声を漏らした。そんな僕を見て、彼女はその大きな瞳を細めて、何か悪戯を施したような子供の顔を見せた。かつかつと、先生が黒板にチョークで文字を書き写す音が精悍な教室に響く。他に聞こえてくるのは、ノートをめくる音と、シャープペンシルの滑るようなサラサラした音。 「アルミン、」 「うん?」 「アルミン。」 「うん。」 「アルミン、」 「だから、何?」 わけがわからない、そう言おうとすれば自分の机上にずいっと彼女のノートが差し出される。なんだろうと見開かれたノートを見遣る。右側には整った文字の羅列と、数式、フリーハンドで書かれたいくつかの円。左側には落書き、しかも見覚えのあるショートヘアの、男子。余り上手とは言えない陰影が書き込まれ、髪の毛の光沢が描かれている。あれ、そこまで考えを巡らせてはたと気がつくと、僕は彼女に何かを伝えるよりも先にため息を履いた。 「……授業に集中しなよ。」 「傑作でしょう?」 「悪いけど僕にはそう見えないよ。」 僕がそういえば彼女はええーと残念そうに表情を曇らせる。 「天使の輪っかよ。」 「輪?」 「うん。アルミンのブロンド。綺麗だったから。」 「……もう前向こう。」 そんなことよりもノートを映さねば、そう思って自分のノートに向き直して、ノートを彼女に返す。ちゃんと前向きなよ、口でそう伝えれば彼女は少しだけつまらなそうに口を尖らせて前を向いた。少し経ってちらりと横を向けば彼女はまた何やら熱心に書いていたので懲りないなあ、と思わず苦笑。カーテンの隙間から溢れる柔らかな日差しが彼女の頭上を一筋照らす。烏のように真っ黒で艶やかな髪が、綺麗な円を浮かび上がらせる。天使の輪っか、心の中で小さく呟いて、くるくるとフリーハンドで円をノートに書き写した。 2013.12.11. |