2 人間は身体的なマゾで、実は精神的にもマゾであるというのが私の考えで、出なければこんな苦しい思いしてまで人は人を好きになるなんてありえないんだと思って、だから私は爪を切るのだけれど、最近爪の伸びは宜しくなく、仕方がないので前髪を切った。目敏いあいつは直様気づいた。 「自分で切ったな。」 「なんでわかったの?」 「雑なんだよ。だいたいなんで切ったんだよ。」 「いいじゃん別に。」 眉間にしわが寄ると、もとより目つきの悪いあいつは余計にその悪人顔に泊がつく。それを素直に指摘すれば尚の事眉間に新たな線が一筋追加された。 「勝手に切るなバカ。ただでさえ俺は今髪に対して敏感なんだよ、」 吐き捨てるようにそう言って、それからまた視線を肩ごしに移す。苛立ち混じりにふるふると震える彼の右足の振動がこちらにも伝播する。ちらりと私も同じ場所に視線を注げば、なるほど、彼の不機嫌の種が見えた。 「髪の毛切ったんだね、ミカサ。」 「……あの横の馬鹿が切れっつったんだと。」 「ふーん。」 「せっかくまた長くなってきてたのに……」 「キモ、」 「うるせえ。」 「横のバカ」はこちらの視線に気づいて手を振る。すかさず私が手を振れば、横の彼は悪態を付いた。「横のバカ」はそれに気づいてむっとした様子だったが、直様ミカサに呼ばれてもう違うことに注視していた。こっちの横のバカはそれも嫌なようで今度はふてくされたようにため息を吐いた。 「いいじゃん別に。」 「………。」 「髪も、爪も、生えてくるもの。」 「……当分俺の許可なしに切るな。」 「さあね。」 じゃあもう陰毛しか切れないじゃんって、切りすぎた前髪をいじりながら思った。 2014.05.23. |