ジャンと深爪の女の子1 痛みはもちろん感じないのだけれど、体の全部をそこに集中させて見たらどうだろう。三日月の形をした白いそれは黙ったまま小気味のいい音を立てて切れる。心の中で痛い、痛い、と言ってみても、やっぱり実際には痛みなんぞ感じることはなかった。 「また切ってんのかよ。」 「うん。」 「もう白いとこねえじゃねえか。」 「それでいいの。」 痛い、痛い。パチンパチンと切るたびに、心の内でまたそっとつぶやく。彼は黙って私の爪を見た。私の爪は桜貝のようにピンク色で、少し筋がうっすら見える。白い部分はもうほとんどないに等しい。 「見てらんねえな。」 「深爪ぐらいがいいの。」 「なんでだよ。」 「いくら切っても痛くないし。爪は。」 「だからってそういつも切るもんじゃねえだろ。」 「うん。爪長いと訓練に邪魔じゃん。」 「そんなに深爪好きなのかよ。」 「うん。」 「は、マゾだな。」 「うん。」 パチン 「好きだよ。」 「そうかよ。」 パチン 「好き、だよ。」 「……ああ。」 視線が泳ぐ。彼はもう私の爪を見ていない。うわごとのような返答に、もう一度確かめるように爪切りを強く握る。パチン、刹那、彼の視線が私の肩の向こう側に注ぐ。肩ごしの、ちょうど私の斜め後ろ、ちょうどあの子の席。肩ごしの聞こえる凛とした声。爪切りとは違う、頭の裏に響く響く声。 「(いたい、)」 心の中で小さく呟く。胸が苦しいのも、感じなくなればいいのに、と思う。 2014.05.23. |