短編格納庫 | ナノ

猿飛と虚しさを共有

あのね。
何?
昔どっかの科学者が知能の高いゴリラにある質問をしたんだって。
へーえ、何の質問?
「死とは何か」って質問したらしいよ。
なーにそれ、
そしたらなんて答えたと思う?
解んないな、困っちゃうんじゃない?そもそも動物に人間のような死の概念があるとは思えないよ。
「暗くて寒い」って答えたらしいよ。
……ふーん、



暑く照りつける太陽に目を細める。目映い熱のある光はアスファルトを焼き、そして蜻蛉を生み出す。窓から見える景色を見ながら気が遠くなるような感覚がした。車内はとりわけ人はおらず、数えるほどだった。一体どれほど待たせる気であろうか。苛立ち交じりに腕時計を見た。実際そんなに時間は経っておらず、かえって苛立ちを増幅させた。隣では先ほどキオスクで買ったらしいお茶をごくごくと飲む女の子が一人。今流行の柄らしいワンピースを着て何事も無かったかのような表情でいる。反対側に座っている中年のサラリーマンは欠伸をした。なんだか怒っている自分が馬鹿馬鹿しく思えた。

「あれなんだってね。」
「ん?」
「無意識らしいよ。」
「何の話?」
「人身事故。鬱になっちゃうとそう思ってなくとも飛び降りたくなるらしいよ。」
「何か怖いね。」
「ね。」

何となくタイムリーな話を切り出せば彼女は本当にそう思っているのか否かの微妙な声色の相槌を打った。正直話を切り出した張本人でさえ実はどうってことない話であることぐらい分かっていた。とりわけ離さずとも何ら支障のない話である。ただこの車両に乗っている人間の頭には一つだけ、この電車はいつ動き出すのだろうということ抱けであったのだから。そうして数分間の沈黙ののち、今度は彼女が口を開いた。冒頭の通りである。今度はなんだか虚しくなった。それから間もなくしてアナウンスと共に電車が動き出した。事故はどうやらこの路線の付近で起きたらしい。数十分経って外を見ておれば、近づいてくる前方の踏切がなにやら騒がしい風に見える。見て、となまえに言えば彼女は小さく首を横に振った。けたたましいサイレンと、そして生々しいブルーシートが見えた。野次馬が集っている。赤と白と黒が視界をほぼ占領する。視界に映らずともけたたましいサイレンの音で実際そこにある問題の踏切が近づくのが分かる。

あ、

声にならない声がサイレンにかき消される。耳に劈くような踏切とサイレンとの音とすれ違いざまに、手に何か柔らかなものが被さった。目を見開く。赤黒いのが線路から少し反れた辺りに目についた刹那、思わず咄嗟にその手を握りしめた。まるで時間が止まったかのようだ。横の彼女は俯いたまま目を瞑っていた。その手は温かくて小さかった。その癖自分の手は冷たくて、小さな絶望と幽かな希望を感じた。俺様まだ生きてるみたい、至極当たり前のことをぼんやり思いながら、やっぱりむなしくなった。


2012.08.01.

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -