短編格納庫 | ナノ

青年徳川が爽やかイケメンすぎる件

黄色い線よりお下がりくださいと言われたので素直に従う。目の不自由ようなおばあさんが何とも心細そうに前方を歩いていたので声を掛けた。危ないから私の手をどうぞ。おばあさんはありがとうと言って手を伸ばした。私は骨と皮しかないようなおばあさんの手を引きながら歩く。電車が来た。おばあさんはこの電車に乗るのだと言った。私は頷くと、三番目の車両に乗り込んだ。おばあさんはあなたもこの電車ですかと聞いてきたので、私ははい、と答えた。腕時計を見れば間もなく正午を回ろうとしている。遅刻決定、心の中で呟いた。

「あのおばあさんは知り合いか?」
「え、」

おばあさんは四駅分先の駅で降りると言ったので、私もそこに行く予定なんですと言って降りた。そうしてきちんと駅のホームを抜けて、エレベーターを下り、駅から出ていくのを見送ると、私はやっと納得した。お礼にと貰った小さな包みのおまんじゅうを片手に、私は息を吐くと一気にホームへと続く階段を上りきった。そうして電光掲示板を見て、次の戻り電車を確認する。あ十分でくるそうだった。そろそろ謝辞のメールを打たねばと携帯を開いた途端、後ろから声がしてはっとした。振り向けばそこには黄色いパーカーを羽織った、好青年の姿。青年は至極嬉しそうな笑みを浮かべて立っていた。

「家康、何でここに居るの?まさかストーキング?」
「ははは。ホームでお前がおばあさんの手を引いてわざわざ乗る予定もない電車に乗るのを見て気になって後をつけたんだ。」
「そっか。」

今頃待ち合わせ場所で彼は心配しているだろうと思っていたが、少しだけ安心した。彼は怒ってもおらず、ひたすら嬉しそうだった。彼は近くにあった自販機に向かうと、持っていたスイカをかざして私がいつも飲んでいるアロエのジュースを買ってくれた。そしてベンチに座る様に勧めたので私はアロエのジュースを右手に、おまんじゅうを左手に持ったままンベンチに腰を下ろした。彼はそれを確認すると自身も隣に腰を下ろした。昼間の暖かな日差しが、ホームの屋根の隙間から差し込んで膝を照らして温い。休日のせいか少しばかり駅は賑やかだったが、ラッシュ時に比べれば閑散としているようにも見えた。傍にいた女子高生らしい子達は私たちの方向をちらちら見ていた。そして笑っている。何も、おまんじゅうとアセロラを持った私を可笑しく思っているのではない。家康を見ているのだ。家康は彼女たちに気が付くとにこやかに笑った。すると女の子たちは嬉しそうに小さく歓喜した。私はアロエジュースをショルダーの中に収めながら、思わず乾いた笑い声を出した。

「優しいよね、あんたって。」
「そうかな。」
「うん。三成君は絶対に笑わないもの。むしろ睨むし。」
「三成らしい。」

そう言って彼は笑って見せた。太陽みたいだと思った。だが、と言って彼は一口お茶を飲んでから口を開いた。ホームのアナウンスと共に、遠くから電車がくるような音が聞こえてくる。

「お前はもっと優しいな。」
「そうかな。」
「ああ。」

そのおまんじゅうがよく教えてくれているよ、そう言って家康は立ち上がると、私の前までたった。そして手を差し出したので、私は少し戸惑いながらもゆっくりと手を伸ばす。特急電車が通り過ぎると同時に彼は私の手を引っ張った。そして何を考えたのか私のおでこにちゅっと唇をよせる。きゃああという女の子の黄色い声と、ぷしゅううという電車の扉が開く音がシンクロした。

「よし、今度は儂がお前を連れて行くよ。」

どこまでも、彼はそう言ってまた笑った。彼と一緒なら、本当にどこまでも行けそうな気がした。


2012.03.2

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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