野生の変態が現れたシリーズvol.3(ゾロ) 放課後を過ぎた夕方。空はすっかり橙色に染まり、山際に太陽が半分だけ頭を出していた。そんな夕刻、叫び声に近い無数の声が、耳に突き刺さる。足が動く度に床が揺れてまるで地響きのようだ。バチンバチンと竹刀同士が強く当たるような音に肩を震わせた。皆同じような防具を身につけているからなかなか見分けがつかない。だが、彼だけは違う。一番奥でツンと張り詰めたような冷たい独特の雰囲気を醸し出した彼を見付けるのは以外に簡単だった。 「ゾローっ、」 「……なまえ?」 彼は私が手を降っているのを見ると、防具を脱ぎ、ゆっくりと近づいてきた。他の人よりも凛とした、背筋のピンとした出で立ちに、思わず息を飲む。あれがまさか授業中は爆睡しているゾロなのかと疑ってしまう程だ。 「何しに来たんだ?」 「さっき助けてくれたでしょ?お礼に差し入れ。ほら。」 片手に持っていた、お菓子の入ったコンビニの袋を見せた。相打ちでいいとか思ったことは勿論口にはしない。 「俺は別に何にもやってねぇよ。」 「いいのいいの、どうであれ私はあれで助かったし。」 「そうか、ありがとな。」 ゾロはお菓子を受け取ると、私を部室に入るように言った。部室は入ってすぐ隣にある。始めたはいる剣道部室は以外に広く、微妙に汗臭かった。これも青春の香りなんだろう。 「茶ぐらいならあるけど飲むか?」 「飲むー。」 ゾロがお茶の一リットルのペットボトルを開けている隙に、私はお菓子を中央のテーブル一杯に広げた。そのなかのポテチを開けるとむしゃむしゃ食べ始めた。部室には私とゾロしかいなくてちょっと妙な気持ちになった。 「なんか、部活中にごめん。」 「どうせもう帰るところだ。気にすんな。」 「そっか。」 ゾロは私にお茶の入った紙コップを手渡すと、そのままロッカーに向かった。私はそれをぼんやりと見ながら延々とお菓子を食べていた。自分のロッカーを開けると、何を考えているのか突然ゾロはそのまま胴着を脱ぎ始めた。私はいきなりの彼の行動に思わず飲み込もうとしたお茶を戻した。 「ちょ、ちょっ。」 「なんだよ、」 「何してんの?」 「着替えてる、」 「見れば分かるよー。そうじゃなくて、何で私が居る前で?」 「見なきゃいいだろ。」 「見なきゃってあんた……。」 彼はそう言って胴着を脱ごうとする手を止めることはなかった。ぎゃあぎゃあ騒ぐ私をよそに、ゾロはあっという間に上半身裸になっていた。筋肉質な厚い胸板に思わず息を飲む。それぐらいどうってことないのは私だって理解しているつもりだが、ここは仮にも密室という状況下の中でのこの展開についついくのがやっとだった。 「わあっ!」 どうすればよいか分からずとりあえず両手で視界を遮った。その直後にふっと笑うような声が聞こえた。 「服脱いだぐらいで騒ぎやがって。」 「ば、馬鹿。ここは密室なのにっ。変態筋肉め!」 「とか何とか言って指の隙間から確り見てんじゃねえかよ。」 「ばれたか。」 えへへと頭を掻けば、ゾロは今度はため息をはいた。そして何も履かないまま此方に近付くと、隣に座ってポテチを食べ始めた。 「何か着てよ。本当に。」 「見なきゃいいだろ。」 「あんたのその筋肉を視界に入れない方が難しいわ。」 さっきよりも至近距離で、動悸がなかなか止まらない。密室で半裸の男性を目の前にすれば、いい意味でも悪い意味でも何か起きてしまうのではと思うのは誰だってそうだと思う。それにしてもやはり鍛えられた彼の肉体美は素晴らしいものを感じる。てかもう高校生の身体を越えている。決して欲求不満な訳ではないと思うが(と信じたい)、ちょっと触ってみたいなあ、と思わず思ってしまった。 「……………。」 「なんだよ、ぎゃあぎゃあ喚いてた癖に今度はじろじろ見やがって。欲求不満か?」 「は、ははは?べ、別にそそ、そんなことないし、し。(平常心、平常心。)」 「動揺しまくってんじゃねえか。」 「し、してないし。」 「…触りたけりゃあ触ればいいだろ。」 「え。」 ゾロの思わぬ発言に一瞬耳を疑った。ゾロは何事も無かったかのような態度で、ポテチをまだ食べていた。私はどう返せばいいか分からず口を開いたまま閉じることが出来なかった。 「な、何言ってんの。」 「触ればいいだろ。別に減るもんじゃねえし。」 「そんなどっかのおばちゃんみたいなこと…。」 「欲求不満なんだろ?」 ほらよ、と言ったかと思ったらいきなりギュッと抱きしめられた。 「わあああああっ!」 「……うるせェ。」 離れようと暴れて叫んでみたが、ドアの向こう側の声に負けて聞こえなかった。ジタバタ暴れれば、ますます腕の力が強くなった。 「離してよ!まさかゾロがこんな変態だったとはっ…!」 「男は少なからず変態なんだよ。」 これを狙ってわざわざ密室に移動したのかと今更分かった。一刻も速く此所から抜け出さなければ。 「強姦反対!さっきはサンジ君に言ってたくせに!」 「強姦じゃねえ、お前の欲求を満たしてやるだけだ。」 私が青ざめれば、ゾロはにたりと笑った。明らかに何度か経験したことあるが、究極にまずい状況下。力ではまず勝てない。この変態まりもめ!海に沈め! 「ゾローっお疲れー……って、えっ!?」 「ウソップ……!」 「長っ鼻ナイス!!!」 「えっ!?」 (助かった……!!) 2015.08.31.加筆修正. title Chissa`!. (I weak to you.) |