短編格納庫 | ナノ

発情中な死の外科医



美しく輝く無数のそれは、都会の夜を見事に飾り立て、群がる人々を酔わす。この瞳に映る人々はまるで醒めることのない深い夢の中で永遠とさまよっている滑稽な生き物のようだった。ガラスの向こう側はそれはそれは宝石箱ように綺麗な背の高いビルたちが見えた。耳に入ってくるのは、微かに皿に自分が握っていたフォークやナイフがあたって擦れるような音だけだった。それ以外の音は、まるで吸いとられてしまったかのように聞こえなかった。自分が本当に此処に存在しているのかと錯覚するほどだ。向かい合わすように前に座っている男は私を吟味するように見ていた。私は出来るだけ目が合わないようにと視線を目の前に出された皿に集中させた。

「知ってるか?」
「え?」

突然声をかけられて驚き視線を目の前に移す。男の特徴的な隈がよく見えた。どきりとしてまた視線を反らせば彼はそれを見てくつくつ笑った。

「食欲を司る中枢と性欲を司る中枢は近いところにある。」
「何が言いたいの?」

そう言えばまた男は意味深な嫌らしい笑みを見せた。

「快楽を司っているのは視床下部だ。視床下部のすぐ近くには快楽を支配する“A10神経”が通ってる。」
「……………。」
「“それ”がセックスをするときの喜びを生む。」
「……いい加減にして。」

ナイフを握っていた手の力を強めた。震える身体を抑えて、小さく呟いた。呼吸がだんだんと乱れてゆくのが分かった。

「訳の解らない知識を私に植え付けて、貴方は一体何がしたいの。」
「そんな怒るなよ。」

男は私と対照的に落ち着いていて、眉をぴくりとも動かさない。表情一つ変えずに私を真っ直ぐ見据える。

「欲望を我慢するのはよくない。ストレスの原因だ。」
「え、」
「部屋を借りた。」
「……………。」
「お前と俺のな。」

にたり、とまた再びへばりつくように笑う彼を私は冷ややかな目で見た。この笑みを私はまたベッドの上で見ることになるのだと思うと、ただ深い溜め息を吐くしかなかった。

ガラスの向こう側の景色は相変わらず美しかった。



恐らく五秒後には忘れるであろう理性



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