短編格納庫 | ナノ

火拳とツンデレなあの子

静まり返った部屋で、小さく呼吸をする。一人、ベッドの上で目を閉じて横になっていると、ドアの向こう側から床に靴底が当たるような音が微かに聞こえてきた。その足音はどんどんこちらに向かってくる。ガチャリとドアが開いて、見覚えのあるシルエットが静かにに入ってきた。

「起きてたのか。」
「うん…。」

そう頷けば、彼が満足そうに口角をあげたのが暗闇の中に慣れた目で解った。彼は疲れたように溜め息を吐くと、ベッドに座った。

「別にエースのこと待ってた訳じゃないから。」
「素直じゃねえなあ。」

へらりと笑って彼は私の頬に触れた。彼の細くて骨ばった指が優しく撫でられて、頬が少し熱を帯びた。

「さらさらしてて、気持ちいいな。」
「擽ったいから離して。」
「嫌だって言ったらどうする?」
「性格悪い。」

そう言えば彼はまた笑った。そしてベッドに私と並ぶようにして横になった。動く度にギシギシとベッドが軋み、その音が誰かが悲鳴をあげているような気がした。シングルベッドは二人ではもうぎゅうぎゅうな位狭くて、自然と密着する形になった。私が被っていたシーツの中にエースも入ると、腕を腰に回した。

「あったけぇな。」

熱の籠ったシーツの中はほんのり暖かくて熱いくらいだった。エースは私の枕を抜くと、器用に自分の腕を私の頭の下に敷いた。自然に腕枕をする状態になり、抵抗したが、そんな私の抵抗も無意味だというように彼に抑えられた。

「一緒に寝るくらいいいだろ?これでもなまえを襲わないように必死に我慢してんだ。」
「何それ。」

彼と向かい合うように方向を向き直して、彼の首筋を撫でた。しみ一つとない綺麗な首筋だった。

「…別に、しなくていいよ。」
「あ?」
「我慢、しなくていい。」
「何だ、誘ってんのか?」
「さあ、」
「どうなっても知らねえからな。」

にたりとした畏やらしい笑みを浮かべ、それを合図に彼の手が嫌らしい手つきで私の服の中に侵入してきた。私はゆっくりと目を閉じて、エースに全部任せた。暗い視界の中で、小さく耳元で「愛してる」と呟かれたのが薄れゆく意識の中で、確かに聞こえた。




無意識の墜落



title gazelle.

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