あすなろ抱きに憧れる火拳 お皿が床に落ちていくのがスローモーションのように視界に入った。水道の水が絶え間なく流れて、綿飴のような泡だらけの手を濡らした。肩に回された腕は筋肉質で肌触りが気持ちいい。背中に額をぺたりとつけられているのが解って、こしょばゆいような、恥ずかしいような気がした。背中全体が熱く熱を帯びたように火照って、身体中が硬直した。余りにも突然だったので、少々驚いてしまった。 「…いい匂いだ。」 「え?」 「なまえの匂いがする。」 「うん。」 いつもはクールで皆の前では絶対見せない一面を、私の前では見せてくれる。私だけには甘えてくれる。それが酷く嬉しくて、仕方がないのだ。 「何かあったの?」 「いいや、」 「じゃあ何?」 「…理由がいるか?」 ぎゅううと強く抱き締められて、息をすることさえも苦しかった。手を拭って後ろに向き直すと、私も彼を抱き締めた。彼が屈んでいるせいか、いつも見上げている彼を、今は見下ろしていた。頭を抱き抱えれば、エースは私の胸に顔を埋めた。肌触りのいいふわふわした髪が、擽ったかった。 「いつものかっこいいエースは何処に行っちゃったのかな?」 「…うるせぇ。」 そう言ってまた抱き締めている腕の力を強めた。私も同じように手の力を強める。 「…少しの間だけ、いいだろ。」 「うん。」 抱きしめている間、ずっと胸が暖かかった。 ふたつはこんなに暖かい title selka. |