政略結婚するなんて言わないで




『スイート3将星・クラッカー様ご結婚か!?』

今日の朝飛び込んで来た速報に、身体が固まる。クラッカー様は現在同盟を模索している大国の王女と結婚するそうだ、と続く報せに、どんどん目の前が真っ暗になっていく。

今日の夜は久しぶりにクラッカーと会う約束をしていたのに。長年の片想いの相手と会うのが楽しみで仕方なかったのに。今は一体どんな顔して会えばいいのか分からない。
突然の話すぎて、ただ呆然としていた。





約束の時間を迎えても、結婚を笑顔で祝福できる自信はなかった。それでも会いに行きたかったのは、未だに好きって気持ちを捨てきれないから。

約束したレストランで名前を告げると、一番奥の個室に案内された。そこの扉を開けると、真っ先にに飛び込んできたのは紫のド派手な髪型。

「来てくれたんだね」
「約束したんだから当たり前だ。名前と会うのも久しぶりだな」

少し固くなった声色になってしまったけど、クラッカーは相変わらずの目つきで口角を上げる。
結婚が決まったらしいのに、何も変わってない。

「そうだね。さっ、食べよっか!」
席に着き、運ばれてきた前菜に手を伸ばす。

今はただ、何も考えずに一緒にいたかった。



デザートのジェラートが運ばれてきて、いい加減結婚について聞かないと、と内心焦った。なんともない会話がしたくて逃げていたけど、始まってもいない恋心を終わらせなくちゃ。

どんな答えでも、きっと笑える。そう思えるくらいには、今日の時間は最高だった。

「結婚、するの?」
「いつかはするだろ」

相当な覚悟で言った言葉は、クラッカーの前にあるジェラートには勝てなかった。ジェラートに集中しているところも可愛いな。思わず笑い声が溢れる。

「違うよ。近々、クラッカーはいいところのお姫様と結婚するって聞いたの。本当?」
「はぁ。またその話か」

クラッカーはスプーンを手放し、顔を上げた。ようやく私と目が合った。
今日何度も聞かれたのだろう。雰囲気からウンザリだ、と伝わってくる。聞かれる度、その子と結婚するって言ってたのかな、と思うと胸が苦しい。


「そいつは俺じゃない別の兄弟と結婚することになった。元々そいつと結婚する気もなかったしな」


まさかの否定に、目を見開く。クラッカー、結婚しないんだ。

まだ、私はクラッカーを好きでいいんだ。

「……そっか!」
心が一気に軽くなり、ようやくデザートに手を伸ばす。少し溶けたジェラートは、最高に甘くて美味しかった。





レストランを出てたら、クラッカーと私の家と反対方向なのに、家まで送ってくれた。その間に話題は尽きることなく続いて、家に着かなきゃいいのにと思ったが、とうとう家まで着いてしまった。

なのに、じゃあな、って言って名残惜しさなんて感じないくらいあっさりと、クラッカーは私に背を向けた。
遠ざかっていく背中を見ていたら、離れていくのがどうしても悲しくなった。今日あんな話があって、いなくなりそうなのを体験したからだろう。

その背中を捕まえていたいって、強く思った。



「ねぇ、クラッカー!」
大声で叫んだら、彼は振り返ってこっちを向いた。それだけなのに、凄く嬉しい。

「なんだ」
「私は普通の出自で、戦えもしない」
「ああ、知ってる」
「そんな私でも、クラッカーとの結婚チャンスはあるかな!?」

言った。言ってしまった。一世一代の告白に、心臓がバクバクする。
無言は一瞬だったかもしれない。だけど、それが無限に感じられた。

「……チャンスだァ?」
低い声にもビクッとしたが、こっちに戻ってくる速さに不意を突かれた。頬を両手で挟まれ、目と鼻の先に見えるクラッカーの顔に心臓が跳ね上がる。

「チャンスも何も、俺はお前だけしか考えてねェ」

真剣に見つめられるなんて初めてで、やっぱりカッコいいな、なんて的外れなことを考えないと言葉の意味を理解してしまい、嬉しすぎて死んでしまいそうだった。


雪様へ


初めまして雪様、ハナと申します!リクエスト下さってありがとうございます!
すれ違いや勘違いネタ好きなので、クラッカーに政略結婚の噂、なんてシチュ頂けてテンション上げ上げで書いていました笑 切甘は良いですな!

10,000hitのお祝いも頂きありがとうございます!
長編の方はこれからも楽しんで書いていきますので、またお時間あればぜひ遊びに来て下さい^ ^





-5-





第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -