「最高の娘すぎて辛い」
あたしのおとーさんは、おじちゃんおばちゃん、みーんなのおにーちゃん。よくおじちゃんもおばちゃんもおうちに来て、おとーさんとお仕事してる。
みんなに頼られているおとーさんは本当にカッコイイ!
だけど、いっつも忙しそうで、お仕事大変なんじゃないかな、って思う。
だから、今日はあたしがおとーさんのお仕事を代わりにやってあげるの!そうしたら、おとーさん喜んでくれるよね!!
「ペロス兄、来週の件だが……」
「あ、カタクリおじちゃんだ!」
おとーさんがいつもおじちゃんたちとお話している部屋で待ってたら、カタクリおじちゃんが来た。カタクリおじちゃんは顔怖いけど、ほんとは優しいんだよ!
「何をしているんだ、名前」
あたしの目の前の席に座ってちょっと困った顔してるおじちゃん。いつもおとーさんがここでお話しする時はあたしはいないから、ここでお話しするの初めてだ!
「あたしがおとーさんのかわりに、おはなし聞いてあげる!」
何のおはなしするの?おとーさんのこと?なんでもいーよ!
ワクワクしながら見つめたけど、カタクリおじちゃんはマフラーを上げて顔を隠しちゃった。おはなししないの?
椅子を降りておじちゃんのとこに行こうとしたところで、おとーさんが入ってきた。
おとーさんは一瞬止まったけど、すぐにあたしのところにきて抱っこしてくれた。
「名前、お父さんはこれからお仕事だ。向こうで待てるね? ペロリン♪」
そのまま、部屋の外に降ろされてドアも閉められた。
お話し聞くのはダメだったかー、じゃあ、次のことやってみよう!
「おとーさん!お部屋飾ったよ!」
カタクリおじちゃんが帰ってから、おとーさんのところに戻る。すっごく大変なお仕事だったから、これが終わってたらおとーさん喜んでくれる!
「飾った……?」
「うん!おとーさんのあめさんあったから、お部屋の飾り付けやったの!」
箱から出す途中だったあめさんがあったから、箱から全部だして、あたしが飾り付けたんだよ!とニコニコしながら説明したら、おとーさんはうなだれちゃった。どうして?
「それは来週のお茶会で使うやつだねェ……ペロリン♪」
箱詰めしているところだったのに、と悲しそうな顔したおとーさんは、ポン、とあたしの頭に手を置いた。
「名前、お父さんはお仕事中だ。いい子にしててくれ」
おとーさんが全然喜んでくれない。どうしたらいいんだろう、と頑張って考えたら、おとーさんの一番大事なお仕事を思い出した。
一番大変だって言ってたから、最初からこれを手伝えばよかった!
「シャーロット、名前……できた!」
「……名前、何をやっていたんだ?」
おとーさんの部屋に行ったらおとーさんいなくて、紙が机の上に置いてあった。紙を覗き込んだら、難しくてよくわかんなかったけど、名前、シャーロット・ペロスペロー、これだけ読めた。
つまり、お名前書けば良いんだ!
そう分かれば、まだ何も書いてない紙に名前、と書いてあるところにあたしの名前を書いていった。
「おとーさんのかわりに、あたしがサインしたよ!」
おとーさんは、紙のお仕事が一番大変だって言ってた。だから、今度こそ喜んでくれる!
期待しておとーさんを見上げた。だけど、おとーさんは喜んでも、悲しんでもいなかった。
「鍵を掛けていなかった私も悪いが……名前、これ以上仕事を増やさないでくれ」
お前を怖がらせたいわけじゃない、と言ったおとーさんの目は、とっても怒ってた。
お仕事代わりにやっておとーさんを喜ばせるどころか、お仕事増やしちゃった。
おとーさんを忙しくしちゃったことが、喜ばせてあげられなかったことが、悔しくて、悲しくて、涙が止まらない。部屋に引きこもって、おとーさんに泣き声が聞こえないように唇を噛んで泣いた。
「名前?一人で泣いてどうしたんだい」
声が聞こえてハッと鏡を見ると、そこからブリュレおばちゃんが覗いていた。
「ブリュレおばちゃん、お、おとーさんが、忙しくなっちゃったぁ……!」
言葉にしてみるともっと悲しくなってきて、ボタボタと服に涙が溢れる。ブリュレおばちゃんは鏡から出てきて、ハンカチで顔をそっと拭いてくれた。
「ペロス兄が忙しいなんていつものことだろう?今日は遊んでほしいのかい?」
ぢがう〜!!!とおばちゃんのハンカチで止まってくれない涙を拭きながら、これまでのことを説明する。上手く喋れなかったけど、おばちゃんは最後まで黙って聞いてくれた。
最後まで話終わったら、ブリュレおばちゃんはよしよし、と優しく笑いながら撫でてくれた。
「名前は優しいね。ペロス兄を、お父さんを喜ばせるなら、とっておきの方法があるよ」
「おとーさん」
リビングで座っているのを見つけて、入り口の方からおとーさんを呼ぶ。
「名前、そんなところでどうした?ペロリン♪」
おとーさんはあたしの方を見ると、こっちにおいで、と手招きしてくれる。
怒ってはいなさそう、と安心しておとーさんのところに走って、手に持っていたものを渡す。
「ん」
「おや、これは……」
これこそ、ブリュレおばちゃんの教えてくれた、おとーさんを喜ばせる方法。
「おとーさんとあたし!」
紙に描いたのは、おとーさんがお仕事してて、あたしが隣にいる絵。
「今日はごめんなさい。おとーさん、いつもありがとう!」
言い終わるとソファに飛び乗り、おとーさんの胸に抱きつく。
「お父さんと名前の絵を描いて、いつもありがとうって伝えるだけで、お父さんはどんな疲れも無くなっちゃうんだよ」ってブリュレおばちゃん言ってたけど、ほんとだったみたい。
「名前……くく、ありがとう。嬉しいねぇ」
これで明日も頑張れる、とおとーさんからもぎゅーってしてくれた。
-3-