苺から始まる結婚生活




「行ってらっしゃいませ、ペロスペロー様」
「あァ、行ってくる。ペロリン♪」

結婚してから毎朝、名目上とはいえ妻の務めとして、夫のペロスペロー様のお見送りをしている。頭を深く下げ、ドアの閉まる音を聴いてから頭を上げる。
今日も十分気をつけて生活しなくては。

「人質として節度ある行動を、ってね」

自嘲を込めて呟いた言葉は、心に重くのしかかる。





大国の王女だった私は、元々は他国の王子と結婚する予定だった。まだ会ったこともない相手だったが、ほぼ確定だった。
しかしそれは一夜にして覆った。

「人質として、ビッグマムのところに嫁げ」
王に告げられたのは、政略結婚なんて生温い、残酷な生存戦略だった。

何をしでかしたのか、ビッグマム海賊団に一夜で攻め落とされた敗戦国。そこが、私の嫁ぎ先の予定だったのだ。
まだ正式に決まってはいなかったが、提携を模索していた私たちの国も敵と見なされている可能性があった。ある程度の武力はあっても、四皇に攻めこまれたら流石にどうしようもない。
この国が生き残るためには、ビッグマム海賊団に何でもする必要があった。一番手っ取り早いのが政略結婚とは名ばかりの人質提供、ということだ。

実に合理的な生存戦略に、私は直ぐに了承した。

たかが人質、結婚相手は誰でも良かった。しかし、新世界でもかなり市場が大きいこの国の第一王女という肩書きは強かったらしい。この国での経済価値を考えると無碍にはできないのか、嫁ぎ先は長男のペロスペロー様だった。

結婚してからは、人質としての価値を下げないよう、常に言動も行動も律してきた。感情は表に出さないよう、疑われるようなことはしないようにしてきた。
おかげさまで待遇は上々だ。母国も特段大きな問題はない。

形だけの夫婦として愛など一生なくても、国の為になるならなんの問題もない。人質として一生を終える覚悟もできている。
愛ある夫婦への憧れは、結婚が決まった夜に断ち切った。





「ペロスペロー様、お帰りなさいませ」
そして、お帰りの時間がやってきた。この際も頭を下げるのだが、今日は下げる前に肩を掴まれた。

「名前はいつになったら、様を外してくれるんだい?」

思いがけない質問に一瞬固まる。
しかし、早く返さなきゃ、と思い直し、最良解を考えながら慎重に口にする。

「……私は私の役割を果たしていたいだけですから」
「役割?」
「裏切らないための人質、そうでしょう?」

自分で言ってて胸がツキンと痛む。私は人質でしかない、それ以上にはなれない。分かっているから、平然を装って彼の目を見つめる。

「それはママとの関係じゃねェか。俺と名前の関係は夫婦だ、人質じゃない」

その言葉に息をのむ。
夫婦だと、そう思っていて下さったことが意外で、何より、ペロスペロー様と私の関係を人質ではないとはっきり言われたことに、頑なにしまい込んでいた感情が動かされた気がした。

「名前」
呼びかけられ注意をペロスペロー様に戻すと、先程まではなかった手のひらサイズの鉢植えが、ペロスペロー様の手の上に乗っていた。

「私の能力で作った、甘くて美味しいキャンディだ。 ペロリン♪」

それを手渡されて見てみると、小さな粒と小さな花が実っていた。
「これは、イチゴ、ですよね?」
「ああ。花言葉は知ってるか?」

花言葉?海賊から花言葉なんて言葉が出てきたのは驚いた。しかし、求められているのは回答だ。すぐに思考を打ち切ったが、イチゴに花言葉なんてあるのか、と関心しただけだった。

「いえ……すみません」
「幸福な家庭」

……幸福な、家庭?これの花言葉が?
そんな花言葉を送るとは、つまり。イチゴからゆっくりと視線を上げると、ペロスペロー様が微笑んでいた。

「私と作ってくれるかい? ペロリン♪」
「……っ、はい!ペロスペロー」

久しぶりに開けた感情の箱からは、至上の嬉しさが飛び出してきた。


LAY様へ


初めまして、ハナと申します。今回はリクエストありがとうございます!
切甘の政略結婚もの好きなので、めっちゃ筆が進みました笑 ペロス兄さん初めてなので心配なのですが、これでいかがでしょうか…!

10,000hitのお祝いありがとうございます!楽しく読んで頂けると聞くと、サイト始めてよかった〜って心から思います(*^^*)
またお時間ある時にでも、遊びに来て下さい!





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