シュレーディンガーの仔猫

空気を読んで、起こしてほしい

柔らかい日差しと、私を揺する手。

「オイ名前、朝だぞ。起きろ」

うるさいなぁ、まだ眠いのに。

「なうろーでぃんぐ……」

ペシッとその手を振り払い、浅く起き上がった意識をまた深く沈めた。





十分な眠りから目覚め、スッキリとした良い気分で伸びをする。隣にあったはずの温もりは冷めきっていたけど、せいぜい数分でしょ。
貴重なお休みの日。さて今日は何をしよう、と時計を見れば、驚愕。
午前が終わっていた。

一瞬で気分が冷え込んだ。

ベッドから転がり落ちながら、パジャマのままドタドタと下に降りる。カタクリどこいったの、と少し怯えながら階段を下りると、すぐそこにソファーに座った大きな背がすぐに見えた。
よかった、いた。安堵しながら後ろから声をかける。

「カタクリ」
「やっと起きたか」

カタクリは本を読んでいたみたいだった。読んでいた本から目を離して後ろを振り返ったけど、一言言うとすぐに本に視線を戻した。
それが無視されてるみたいに感じて、私がいなくても良い休日になってるって言われてる気持ちになって、ムカつく。

駆け寄って、ボスッ、と背中に軽く頭突きをかました。

「……どうした、名前」

振り返ろうとするカタクリの背にしがみつき、服を掴む。額を背中に預けたまま、ぽつりと不満をこぼす。

「今日は、一緒にいられるって、いった」
「そうだな。一日一緒にいられる日だ」

大幹部の方が忙しいけど、私は看護師。自由に休みが取れないから、カタクリと全日の休みが合うことが少ない。酷い時には一年で一度だったりする。今日は、そんな貴重な一日。昨日の仕事が深夜に及んでいたとしても、朝には起きようと思ってた、のに。

「……起こしてよ」

自分の責任だって分かってても、起こしてくれないカタクリに少しだけ八つ当たりしたくなる。カタクリは一人だけ起きてのんびりしてるなんて、私だけがこのお休みの日が楽しみにしてたみたいで嫌になる。

「あんなに幸せそうに寝てる名前を起こすのは忍びなかった」

悪かった、と後ろを見ずに器用に私の背中を撫でくる。撫でられた心地よさと、大切にされてるんだって実感と一緒に、どうしてもブスッとした可愛くない思いが出てくる。

「起こすの!それか、一緒に二度寝するの!」

あーあ可愛くない。ワガママなんて言っちゃって。素直過ぎる態度は毒にしかならない、なんて分かってるけど、どうして自制できないんだろ。
今までも散々ワガママ言ってきたけど、今日こそ怒られるかも。想定して、思わずカタクリの服をギュウッと固く握りしめる。

「分かった。これからは起こす」

毎朝何時に起こせばいい?なんて聞いてきて、思考が止まる。怒られなかったとかじゃなくて、これは優秀な目覚まし時計がセットされる予感がしたから。
服から手を離し、頭を上げてカタクリから一歩離れる。

「……空気読んで起こしてよ?」

カタクリは大好きだけど、カタクリしか好きなものが無いわけじゃない。カタクリと同じくらい、大好き歴だけでいうなら最長を誇る睡眠時間を削られるのは、相手がカタクリといえど耐えがたい。

「それだと一生起こせないな」

顔がこわばってる私に対して、身体をこっちに向けて楽しそうに笑うカタクリ。
ああ、もう。なんで。全体的に負けた気持ちにしかならない……!



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