2人の気持ちの距離を、
ドーナツの数で表現せよ

事実1:好きの意味が違う

昼休憩終わりの午後。カタクリ様の執務室に向かう私の手には、有名スイーツ店の紙袋がぶら下がっていた。
お昼に秘書官仲間の一人から、来客から頂いたというお土産のおすそ分けをもらったのだ。カタクリ様は食べたいかな、と受け取った品を持って執務室に戻っていた。

その道中、偶然にも廊下で、カタクリ様を発見した。

部屋以外で会えるなんて、なんて幸運!廊下で見るカタクリ様も素敵、とじっくりじっとり見つめていたら、凄く凄く珍しく、なんと、カタクリ様が話しかけて下さった。

「名前も好きなのか」
「勿論です!生まれた瞬間から好きでした!」

間髪いれずに答える秘書官の鏡。私はいつだって、カタクリ様が大好きです!

だけどいつもの告白劇に、いつもの冷めたお返事。これがテンプレだし、今日も絶対あしらわれるって思ってた。



「そうか、気があうな」

なのに。なのになのに、そのお返事は、一体どういう……!?
冷たくない、それどころかファンクラブのガチしか分からないくらいの、でも確かに少し弾んだ声色のお返事の意図が分からない。

ついに私の想いがカタクリ様に届き、カタクリ様も私を好いて下さった、と。そう考えていいのか!?
いや待て私、落ち着け。期待値爆上がりで暴落したら辛いぞ!?

「ま、待ってください…それって、つまり……」

確認を取りながらも、私の妄想では結ばれてそのまま執務室で……というところまで来ていた。ムードとか知らない。それよりも、防音は大丈夫だったっけ?

「心配するな。そんな野暮なことしない」

まるで私の考えを読んだようなご回答に、稲妻が走る。確かに、これは性急すぎるよね……!

「ば、場所を変えて、ってことですか?」
「場所?ここで構わん」

訝しげにさも当然のように言ってますが、なんと大胆発言!!まじですかカタクリ様!いやいや、こんな廊下でとか上級過ぎませんか!?

「いや!それはさすがに!」
「帰ってから食べるのか?」

帰ってから!?そそそそ、それはつまり、か、カタクリ様のお家にお呼ばれして、それから……ってことですか!!
カタクリ様のお家に行くなんて、天国に行けるようなものですよ!!!

「えええっ!?そんな、カタクリ様っ……!」

嬉しさに瞳を潤ませて見上げたら。



「ドーナツは作り立てが美味い。今食べれば良いだろう」
「…………え?」



妄想バブルの大崩壊が引き起こされた。



全部!ここまでの話!私の持っていたドーナツの話かよぉおおお!!カタクリ様本当に本当にドーナツお好きですね!?

内心の大恐慌は真顔に隠して、手にしていた袋をカタクリ様に渡す。

「どうぞ、このドーナツ。召し上がって下さい」
「良いのか?名前も好きなんだろう?」

そう言いながらも袋ちゃっかり受け取ってるカタクリ様マジ好き。私も袋になって抱きしめられたい。

「いや……うん、いいんです。ドーナツよりカタクリ様の方が好きですから!」

私ができうる限り最高の笑顔を作ったのに、それになびくこともなく、ありがとう、と礼を言われて、反対方向に向かわれてしまった。そしていつも通り見事に私の告白は総スルー。
ボロボロにやられたメンタルだったけど、浮き足立った様子のカタクリ様を見て一気に回復した。あんなに嬉しそうなカタクリ様は早々見られない!心の中のカタクリ様フォルダに500枚くらい追加しておこう!

それにしても、複雑な気分である。はぁ、とため息が落ちる。なんでよりによって、カタクリ様がお好きなものはドーナツなの……
ドーナツマイスターのカタクリ様に、私はドーナツ嫌いです、だなんて言えない、言いたくない……!嫌いなものに負けたことよりも、カタクリ様と好きなものの共有ができないことが、悲しくてしょうがない……!!

ドーナツ嫌い、絶対克服するんだ……!!!



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