新妻くっきんぐ!

少女、親族紹介

2週間の長かった船旅ももうすぐ終わり。あと数分で万国のホールケーキアイランドに着き、この船ともお別れだ。

「これでよし、と!」

持ってきた服をバッグに詰め戻し、クローゼットさんの前に置く。クローゼットさんは中に詰まった服を見て、大きなため息をついた。
「いい?絶対、カタクリ様にもっと可愛い服買って頂くのよ!」
「分かったって〜」

クローゼットさんは毎日そう言ってくるけど、服なんてそんなになくていいと思うんだけどなあ……そんなお金があったら、作物の種でも買いたい。
……なんて言うと、クローゼット視点の可愛い服談義を数時間始めるから、最近は流している。

適当な返事なのに、クローゼットさんはいつも私の返事にニッコリしてくれて終わる。なのに、今日はクローゼットさんの顔はまだ心配そうで、それと、と言葉を続けた。

「……この2週間、カタクリ様より私と話してばっかりだったと思うけど、よかったの?」

ぎくっとして、肩が揺れる。思ってはいたけど、あえて考えずに逃げていた事を指摘されると苦しい。



カタクリさん一緒に過ごす時間はまあまあ多かったと思う。食事も必ず一緒だったし、寝る前は私の部屋に来てくれて、毎日あの椅子に座っていた。
だけど、その時にたくさん話そうって気になれるかは別問題だった。

私が話しかけないとカタクリさんほぼ喋らないし、話しかけようにも話題がない。つまり、無言空間が出来上がるのはすぐだった。

しかし、この息苦しい状況に困り果てていた3日目に、転機を迎えた。ここの図書室で「どんな相手とでもスラスラ話せる話術」って本を見つけてしまったのだ。
これは試さなくちゃ!とその日の夜、鉄板と書いてあった天気の話題をしてみた。

「明日は晴れるんですかね?」
「ああ」
「そうなんですねー」

会話終了。

あの作者、絶対許さん。
普段私が振っていた話題の方が話続いたわ!

勇気を出して話題を振ったのに無言の空気を味わい、それ以降私の勇気は粉々である。カタクリさんは優しい人かも、とは思ってるけど、変な話題振って怒らせたら最悪だから冒険なんてできないし。
結果、2週間カタクリさんの前でしっかりと大人しい子を演じて終わりました!国のこと考えたら、言わぬが花って結論に至ったよね!

考えて話さなくちゃいけない人と、特に考えずに気楽に話せる喋る家具がいれば、ついつい家具と話しちゃわない?
本当は、これからずっと一緒になる旦那とコミュニケーションを取らなくちゃいけない、と分かっていても。

「……クローゼットさんと話してると、気楽でいいんだよね!」
「私も、名前ちゃんとお話しするの楽しかったわ!」
るんるん、と口で言っちゃうクローゼットさんに笑いが溢れる。後ろめたさが少しだけ忘れられて、本当にいいクローゼットだと思う。

バッグをしっかりと持ち、よいしょと立ち上がる。
「2週間お世話になりました!またね、クローゼットさん」
「私も楽しかったわ〜!可愛い服着た名前ちゃんに会えるのを楽しみにしてるからね〜」
ウインクを飛ばしてきたので飛ばし返し、カタクリさんが待っているであろう甲板に向かう。





「ここだ」
船を降り、おとぎ話か夢の中みたいな街中を通り過ぎ、私の家の何千倍かも大きいお菓子のお城に唖然としている間に連れてこられた豪華な扉。この先にカタクリさんのご家族が揃ってお茶をしているらしい。
これから、結婚前の親族とのご挨拶、ってやつだ。

うわああああどんな人いるんだろめっちゃ緊張する!!

「緊張しなくていい。ただの顔合わせだ」
「そう、ですね……」

家族に会うだけだからだけど、どっしりとした存在感のカタクリさんがそばに居ると思うと気持ちが落ち着く。
扉が開いていくのを見ながら少し息を止め、吐いた。

ブルーピアの王女として、凛としなくちゃ!いくぞ、私!



「遅かったじゃねぇか、カタクリ」
「遅れてすまない、ママ」

一番奥に座っている、ここから見てもかなり大きく見えるピンク色の人がカタクリさんのお母さんかー。その側にずらっと座ってるのが兄弟かなー。みんなめっちゃこっち見てるー。



……いやいやいや、大きすぎない!?カタクリさん大きいからお義母さんも、とは思ってたけど、カタクリさんの比じゃないほど大きいとは、これいかに。
兄弟の方々もみんな大きすぎぃ!!私と同じくらいの1メートル級、ほぼいないじゃん!

心臓がバクバクする。こんな大人数の前初めてで、ここで知ってる人ってカタクリさんだけだし、みんな大きすぎるし。怖くて泣きそう。震える唇を強く噛み、ワンピースの裾を左右に持ち上げる。震えてませんように、と願いながら声を出す。

「お初にお目にかかります。お義母様、ご兄弟の皆さま。ブルーピア王国が第一王女、名前と申します」
「よく来たなぁ、名前!」
顔を上げると、お義母さんの目に射抜かれた。眼光すごい強くて、息が止まる。

「お義母様」
囁くように呟き、裾を握りしめる。何言われるんだろう。カタクリさんと初めて会った時と比べ物にならないくらい怖い。

「マ〜ママママ!お義母様!面白ぇ!」
しかし、お義母さんから発せられたのは明るい笑い声だった。

「カタクリの嫁になるってことは、おれの娘になるってことだ。娘は母親をなんて呼ぶんだ?」
ん?と再度大きな目を向けられビクッとする。



「……母さん?」

反射で答えた瞬間、空気が凍った。

え、なんで!?やっぱ反射で答えたのが良くなかったのかな!?母上の方がお姫様っぽいよね、母上が正解だった?

ぐるぐるしていた思考を一旦止めたのは、母上(仮)の笑い声だった。
「カタクリ!コイツぁいい!気に入った!」
機嫌よく笑っている様子を見て、少し安心。とんでもなく失礼なことしたのかと思った……。

「名前、ママのことはママと呼んでくれ」
ひそっ、とカタクリさんがアドバイスをくれた。数分前だけど、すごく久しぶりに感じるカタクリさんの声にとてつもなく安心する。
けど、ママって。義理の娘がそう呼んでいいのか?恐る恐る、呼んでみる。

「……ま、ママ?」
「なんだい、名前」

怖い笑顔を向けられたけど、それ以上は何も起こらない。周りの兄弟たちも目の前のお菓子をまた食べ始めている。

と、とりあえず、親族紹介は無事に終わった、のか?



「ところで、名前の服はなんだい!カタクリ、服ぐらい買ってやんな!」
「分かった」
(え、そんなに私の服残念なの?)



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