新妻くっきんぐ!

少女、嫁入り準備

憧れてた。絵本のお姫様みたいに、運命の王子様が現れて、大きなお城で末永く幸せに暮らす、ありがちな結末に。
私だって本当に一応、絵本の中みたいな生活じゃないけど、お姫様なんだから。



「名前、結婚が決まった」
新種の小麦がぐんぐん成長して、ほくほくしながら城……というより、ただ単に他の家より広い家。絵本の城なんかとは到底違う自宅に戻ると、自室に向かう廊下で父さんにそう呼び止められた。

おめでたい、けど衝撃の知らせに、思わず目が点になる。

「え、誰の?付き合ってるカップルなんていたっけ?」
小さな島国のブルーピアは、人口もそんなにいないから、全員顔見知り。それに、島の四方は9割ぐらいの確率で荒れてる海だから外から人も来ず、結婚相手は島の中。だから付き合うと速攻で広まる。

なのに、上手く隠し通して結婚するとは……。まだ結婚してないお姉ちゃんたちを思い浮かべる。



「お前のだよ、名前。ブルーピア王国の王女として、嫁ぐんだ」

ピシリと硬直する。頭が働かない。は、え?私?疑問符しか浮かばない。

「ええっと……そ、そうだよね、私一応王女だからね、うん。政略結婚っていうんだよね?そういうのもあるんだよね?」
今まで何も聞いてなかったのに、突然の報告。

そりゃ、王女は社交辞令や意図しない結婚する人もいるってのは知ってたよ?

ただ、うちの国本当に他国と交流なくて、政略結婚の話も出たことないし、そもそも社交辞令言ったこともないんだよ!
あぁ、そんなことならもっとお姫様が出てくる絵本を読んでおくんだった!

今更後悔しても遅い。
それに、結婚相手が素敵な王子様なら問題ない。憧れのお姫様になれる!

気持ちを切り替えて前向きに、お相手について聞くことにした。

「して、そのお相手は……?」
「どこの海賊団かは忘れたけど、カタクリさんっていう人みたいだ」
「……いやいやいや!意味が分からない!」

海賊!?こんな平和ボケしてる住民の私が、海賊と結婚!?絶対価値観合わないやつじゃん!

それよりも、娘の結婚相手に海賊を選んだのも意味分からないけど、なんで相手の素性よく分かってないの!?せめてちゃんと調べてよ!

息を荒げて父さんに抗議すると、いやぁ、と苦笑いしながら口を開いた。

「この前、久しぶりに外から人が来てね。それがカタクリさんだったんだけど」
ん?いつ来たんだ?
この国では外から人が来るのはレア。だから誰か知らない人がいたら島中に知れ渡るのに、聞いた覚えがない。

「名前がその人と結婚しないと、この国を焼き払うっていうんだ」
……突飛すぎで全く意味が分からない。
なぜに私?一応王族だけど島の中ですら権力なんてほぼ無いし、脅してまで結婚しようとする理由が分からない。

「でね。母さんに相談したら、ぜひ嫁がせましょう、と」
.……うん、流れはわかった。
けどその動機とかが分からない!母さんはなぜ乗り気なの!?

分からないことだらけで渋い顔をしていたのか、父さんは眉を下げて逃げ道を作ってくれた。

「どうしても嫌なら断ってもいいよ?その先に未来はないけど、父さん母さん、みんなみんな死んでもいいから結婚したくないならしょうがないよね」
「そんなワガママじゃないです大丈夫です結婚します!」

前言撤回、逃げ道を塞がれた。

いくらまだ10代前半の子供だからって、そんなワガママ言えるわけがない!
それに、大好きなこの国を、自分の一存で潰せるわけがない。

父さんは私の返事に安心と満足感を浮かべた笑顔で、両手を握りしめてきた。
「よかった!じゃあ1週間後の結婚式に向けて、みっちりと、それっぽいお作法とか喋り方を母さんたちから学んでくれ」
「……ブルーピア王国のため、だよね……」
目を伏せてあの子たちに想いを馳せる。

ああ、今育ててる新種の小麦の成長を見届けられないなんて……。子どものように育ててきた小麦を手放すのは断腸の思いだけど、仕方ない。
ブルーピア王国の王女として結婚するんだから、田舎っぽいとか、礼儀がなってないなんて言われないようにするのが王女の務め。

私、苗字・名前、嫁入り準備始めます!





「あ、ちなみにカタクリさんの年齢、父さんと同じくらいだよ」
「……うそでしょ?」



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