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「捻じれた世界にアトリエを」からレオナ





「隣失礼するよ」


そう言って、俺の許可も待たずに隣に座る女。

この時間に植物園にいるということは、俺と同じくサボリだろう。一瞬、コイツにしては珍しいとも思ったが、俺以上に学園で自由に振る舞っているような奴だ。特に気にしたものでもない。

口を開く気にもなれず、いつも通り俺の隣でノートを開いた奴を横目に、たしっと尻尾で地面を叩いた。

無反応。

もう一度強めに地面を叩く。それでも奴は無反応だ。澄ました顔しやがって。

地面を叩くついでに腕を掠めてやると、流石に気になったのか、奴はチラッとこっちを見た。……が、それだけだ。深紅の瞳は再び元の位置に戻り、視界から俺の存在を消す。

その一連の動きが気に入らなくて、今度は直接足を叩いてやった。無反応。

二度、三度、同じことを繰り返す。無反応。

それならと、ペンを取るその腕に一瞬だけ尻尾を巻き付けてやった。……奴の口角が少し上がる。

尾の先でするりと頬を掠めてやると、擽ったそうに身を捩って、ようやくその無機質なノートを閉じた。


「なぁに、構って欲しいの」


奴は舌がもつれるような甘ったるい声で、仕方ないと言わんばかりの顔を向けてきた。


「……あ?」


むっとした顔で「邪魔するな」と文句を言われるだろうと踏んでいただけに、その反応があまりに予想外で、威嚇するのが一拍遅れてしまった。

そんなわけねぇだろ、と言外に伝えてみるも、奴はそのどうしようもない笑顔を崩そうとしない。しまいには俺の頭に手を伸ばし、くしゃりと髪を梳くように撫でてきやがった。


「あとでね、レオナ」


まるで俺の心の奥底にあるものを見透かして、何もかもを理解しているようなその表情……それにはやけに見覚えがあった。

……ああ、そうだ。チェカを見る時の、兄夫婦と同じ顔だ。


──気に食わねぇ。


俺はおもむろに上半身を起こし上げ、再びノートに視線を戻した奴の顎をわし掴み、ぐっと顔を近付けた。

少しでも動けば、鼻と鼻が触れ合うような至近距離。驚きに見開かれた奴の深紅の瞳が、頼りなさげにちろっと揺れる。

初めてこの植物園で出会った頃も、確か同じようなことがあった。あの頃は今と違って、全くと言っていいほど興味が無さそうな反応だったというのに……今はどうだ。

緊張したように息を飲み、呼吸すら止めて体を後退させようとしている。……心底気分が良かった。

お前が俺を無条件に甘やかせなくなるその一瞬が、楽しくて仕方ない。


「寝る」
「ええ?」


奴の反応に満足した俺は、顎を掴んでいた手を離して、無遠慮にのしっと膝の上に頭を乗せてやった。持参の枕より寝心地はよくないが、ノートと睨み合うこいつの邪魔ができるのなら、それも悪くはない。


「まったく、君ってやつは……」


草の上にパサッとノートを置く音が聞こえ、己の勝利を確信する。甘ったるいその声や言葉は気に入らなかったが、


──愛おし気に頭を撫でるその手だけは、存外嫌いではなかった。





「寝るの早いな……あまりにも気まぐれ過ぎないか? さすが魔性のネコ科……顔が国宝級……髪の質も国宝級……この隙に尻尾の毛を一本くらい採取しても……いや、レオナは友人、レオナは友人……我慢しろ、私」
「全部声に出てんだよ、うるせぇな」







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