「っていうことになりまして」
「まぁいいんじゃないか?ついでに世界救うの」
「三郎までなに言ってんの?」

私達4人を泊めてくれるという三郎についていった家は、なかなか広かった。確かに、5人で生活してもなにも不便はしなさそう。布団も人数分あるし……。
すごく綺麗に片付いているあたりは三郎らしいけど。

「ひとりで住んでいるの?」
「今はな。ほとんど島を空けているから、もはや無人のようなものだが」

にしては、空気が篭ったような感じもしない。勘ちゃんは囲炉裏に興味津々だ。サルートにはなかなかないんだろうな……。

「普段は後輩達が掃除してくれている。本来は任務で島を空けている人間が戻ってきた時住む建物なんだ」

土井先生とか、と追加された言葉に思い出す。そっか、土井さんもここの人なのか。

「土井さん、先生なの?」
「そうだ。風呂は自分で沸かせよ、私は寝る」

三郎は疲れたように言い残して、さっさといなくなった。布団や風呂の説明もなしかい。自由にしていいってこと?

勘ちゃんと雷蔵とハチさん、手分けをして布団を敷いたり風呂を沸かしたりする。
疲れていたので、その日は皆あまり喋らなかった。昼間、たくさん喋ったしね。

この島には、王政府やその他どんな組織も介入できないと聞いた。
学術都市。学問を研究する場所だ。知りたいことの多い私たちにはぴったりの場所。
なにかの襲撃に怯えることもなく、モンスターと戦う必要もなく、食事と寝床が確保されている。

そうして、私たちの旅の小休止は始まった。










私たちの毎日は穏やかだった。

大人は何かしらにならないとこの島にはいられない。つまり、なにか「仕事」をしないと、生きてはいけないのだ。
その点、雷蔵は強かった。神話にめちゃくちゃ明るい。話す人によってオチが違うという伝承を、何通りでも知っている。彼は研究者達に大人気で、いつでも引っ張りだこだ。

勘ちゃんは、島の子供たちに剣を主とした武術の稽古をつけてやっていることが多い。庄左ヱ門くんと彦四郎くんマジかわいい。

ハチさんは、最初にいた地下の部屋にいることが多かった。なにをしているのか聞いても、「まぁ、あとのお楽しみ」だそうだ。
「上手くいくかはわかんねぇけど、絶対びっくりさせてやるから」と言われた。なんかの修行かな……?どんな修行ができる場所なのか、三郎にも聞いたけど教えてくれなかった。

そして、私はというと。

「おばちゃーん!見てください、この山菜の量!」
「あらあら、またこれはすごい色ねぇ」
「毒に見えるでしょ、でもこれ食べれるんですよー!アク抜きしたいんで、ここ使っていいですか?」

なにをしているのか自分でもまったくわからない。
私に出来ることは……と考えた時、料理しか思い浮かばなかった。なので、食堂のおばちゃんの手伝いをしながら、レシピをいくつか教えてもらっている。とても勉強になる。
あとは、今日みたいに、この島の人達が知らない食材を発見してきたり。

「よし、これでちょっと時間置いて……。ここだと邪魔ですかね?」
「いいわよー、そこなら大丈夫。手が空いたなら、また地下の食事頼んでいいかしら?」
「お安い御用です」

ハチさんの食事だ。

ハチさんのことを知っている人は少ないらしい。学園長先生や、三郎、それから三郎のまわりの数人だけなんだって。
理由はよく知らない。モヤモヤするけど、知らないことが多すぎて、もう慣れちゃった、みたいな……。よくない慣れだと思うけど。

おばちゃんに手渡されたお盆には、小ぶりの鍋がひとつ。三郎いわく、保温の魔法がかかっているらしい。便利なものだなぁ。

「お、エリコか。八左ヱ門の飯?」
「ちょうどよかった三郎聞きたいことが」
「今しがた塔から降りてきたところだって、どうして見てわからないかなこの女は」

どこかボロっとして見えるのは徹夜明けだからか。
文句を言いつつも、学園長先生の庵の方面へ向かうと着いてくる。なんだかんだ寂しがりなんだよね、三郎って。

もちろん、悪い人じゃない。この人の話をどこまで信じるか、まだ決めかねているけれど、その実そんなのはたいした問題じゃない。

「ね、器の保温って、どうなってるの?どういう魔石?あ、魔法道具か」
「よく知らん。譲り受けるものだからな」
「誰から?サルートかオロゴスタ?」
「確かに王政府の街でも魔法の知識は進んでるが、もっとすごい奴らがいるんだよ」

学園長先生の庵を通り過ぎて、誰もいない静かな砂利道を進む。赤土のついた白くて丸い小石は、踏まれてもキシキシと音を立てるだけだ。

「もっとすごい奴ら?」
「私たちが空を読むことで神話を研究するなら、魔法を調べることで神話を研究する連中もいるってことだ」
「魔法を……」
「王政府の魔法室に所属する魔術師連中はだいぶ悪趣味だと聞くが、奴らは違う。自然に逆らわないのが信条だし」

三郎はそこでひとつあくびをした。地下へ繋がる扉を開ける。お盆を持つ私の代わりに、魔法照明をつけてくれた。

「会おうとしてもなかなか見つけられないが、たまにふらっと島に来るんだ。結構便利な魔法道具を置いていくが、代わりにどっさりとこちらの研究成果を持っていくからたまったもんじゃない」
「まぁいいんじゃない?減るもんじゃないし」
「私たちの生きがいだぞ」

だったら自分たちで魔法道具も作ったらいいのでは?ウィンウィンの関係に聞こえるけどなぁ。