「これより先は、行かせませんよ」

そう告げた声は鋭く尖っていたけれど、私は思わず武器を握る手が下がってしまった。
勘ちゃんがそれを咎めるように横目に見てくるけれど、彼にしても、剣先は下がっている。

ずいぶんと幼い声に、今まで出会ってきた少年達ーーきり丸くんを筆頭に、三治郎くんや金吾くん、乱太郎くん、伏木蔵くんーーがダブる。

「えーと、とにかく、」

君の姿を見せてくれないかな、とか、そんなふうに続いたであろう勘ちゃんの言葉は、三郎に遮られた。

三郎が弓から矢を外して、頭上に呼びかける。

「鉢屋三郎だ。彦四郎、見回りご苦労」

ひこしろう、くん。
三郎の里というだけあって、やはり三郎の知り合いみたいだ。

「……鉢屋先輩であることの証明を」
「降りておいで」

三郎は服の胸元からペンダントのようなものを引っ張りだした。木製の小さなトップには、何か彫られているようだ。

やや間を置いて、木から飛び降りてきたのは小さな男の子だった。
きり丸くんや金吾くんのような、たくましい目つきをしている。

「ほれ」

警戒したまま弓を構える彦四郎少年に、三郎は首から外したペンダントを投げ渡した。
わっとっと、なんてそれを受け取った彦四郎くんは、眉根を寄せる。

「……確かに鉢屋先輩のものですが」
「あぁ、それから」

三郎はそこで、私たちを振り返った。は?

「こいつらは、地下の方の客人だ」
「地下の方の?……と、言いますと」
「そうだ、例の」

は?

チカノホウの?……誰かの苗字か?
いやそんなわけあるまい。彦四郎くんは納得したように頷いて、つかえていた矢を背中の矢筒に戻した。
弓も素早く背中にしょいなおしてから、木と革紐でできたペンダントを三郎に差し出す。

「それを知るのは僕らだけですからね、確かに鉢屋先輩でしょう。おかえりなさい、先輩」













彦四郎くんの案内の元、里とやらへの移動はスムーズだった。
どうでもいいけど、途中で転びかけた彦四郎くんギャンカワ。それを抱き上げて阻止する三郎はどうでもいいんだけど、そのまま抱っこされて移動する彦四郎くんマジカワ。

「この先、もうすぐだ。エリコ、へばったか?」
「馬鹿にしてんの?へばってんのは三郎でしょ」
「口の減らない女だな」

見栄を張るけれど、やはり男女の差は歴然としていた。彦四郎くんを抱いたまま、三郎がちらりとこちらを見る。
彦四郎くんと出会った地点からは微かな傾斜の登りが続き、私はへばってはいないものの最後列に落ち着いていた。

「わ……こりゃ、すごいね」

勘ちゃんの声に、上を見上げる。最後の1歩は、雷蔵が黙って私の腕を掴んで引き上げてくれた。マジ紳士。豪腕だけど。

1歩登って、眼前の景色に言葉を失う。

「丘の上にできたクレーターに、私たちは住んでいる」
「星の姫の祈りで太陽が砕け、小さな方の欠片が青い月にぶつかった時に降ってきた隕石のひとつがここに落ちたんです」
「……ま、それは神話だがな。隕石が落ちたにしては、あまりにもクレーターが小さいから、私は信じていない」

三郎の説明に、彦四郎くんが追加説明してくれる。
確かに、隕石の跡地となるともっとずっと大きいはずだろう。……ここら辺は、勘ちゃんや雷蔵にはわからないと思うけど。むしろなんで三郎はそんなこと知ってるんだろう?

島そのものが、そんなに広い面積ではない。
私たちの眼下には、活気づいた集落がすり鉢状に存在している。島の外から見たら、森しか見えないわけだ。

「目的地は一番底だ」

三郎が彦四郎くんを抱き直して、さっさと歩き出す。

「三郎、あの塔は?いくつかあるけど」

勘ちゃんが指さしたのは、集落の向こう側、私たちとは反対側の淵にいくつか立っている塔だ。私も気になってた。
それに、彦四郎くんが得意気に振り返る。

「星読と、月読の方たちが使う塔です!」

星読と、月読。
現実に、そんなことをやっている部族がいたとは……。占いに近い話だと聞いたし、信じている人も少ない。現に勘ちゃんは首を傾げている。

「今どき珍しいねぇ」
「そこらのデタラメと一緒にしないでくださいね!鉢屋先輩の月読は、すごいんですから!」

雷蔵の言葉に、彦四郎くんがムキになって言う。
その言葉に、私と勘ちゃんと雷蔵は、沈黙するしかなかった。

三郎、……マジで?