時折振り返って道を塞ぎながら、入り組んだ土の通路を進む。
右へ左へと歪んでいるが、コンパスを確認しながらなんとか進む。方角としては一方向に進んでいるので、出口へ向かっていると思っていいだろう。

「うーん、やっぱり僕の方はダメだ」
「地中深いからね、磁場は狂ってるかも」

やはり雷蔵の持つ道具では方角が定まらないらしい。キシャクとか言ったかな。

高度としては平坦な道だ。足元も悪く、明かりもランプひとつしかない中を、雷蔵と進む。

その平坦な道に微かに傾斜を感じ、それに気づいた雷蔵と喜びの声をあげて、しばらく経った頃。

「もうだいぶ登ったよね」
「うん。そろそろ地上くらいの高度だと思うんだけどなぁ」
「……見て、あれ」
「え?」

雷蔵に言われて、足元ばかり気にしていた視線をあげる。
2人立ち止まって目を凝らせば、視線の先に、点のような光が見えた。

外はもう、夕暮れだ。だとすればあの光は。

「……外の光だといいね」

そこにあるのがなんであれ、この通路の終わりであることは間違いないだろう。

雷蔵も武器を構え、今までと同じペースでまた歩き始める。

できればあの光は、私が望むものであってほしい。

勘ちゃんが捕まっていた部屋に残してきた三郎。
赤い庭で、雷蔵の縄を切って穴に突き落としたあと、立花さんや七松さんとともにあの場に残った勘ちゃん。

できれば、あの光は、彼らの。

「……から……さ……」
「せぇな…………でも……」

近寄るにつれ、微かに聞こえてくる声に顔がほころぶ。
小さく点のように見えていた光は、私の手元と同じ魔法照明だ。それを持つ手、人影はふたつ。
さらに奥には、月明かりに照らされた地面が見える。

「……っ勘ちゃん!!」
「エリコちゃん!?」

思わず叫び声をあげれば、私の名前が返ってくる。

気づけば走っていた。
大丈夫、全員無事だ。

走りながら小石に足を取られ、転びそうになった身体をしっかりと受け止められる。少し、血の匂いがした。

「勘ちゃ、ん、無事でよかった……!」
「エリコちゃんも、雷蔵も。……お疲れ様、ふたりとも」
「勘ちゃん!」

遅れてたどり着いた雷蔵も、私を押しつぶすように勘ちゃんにしがみつく。

あぁ、あぁ、全員無事で、本当によかった。

「……あー、感動の再会してるとこ、悪いが」

スッと、脇から冷めた声がはいる。

「すべて私のおかげってことを、忘れてもらっちゃ困るね。報酬くらいいただきたいものだ」
「やだ三郎、生きてたの?」
「お前、本当にぶっ殺すぞ」















どうやら勘ちゃんと三郎はかなり早い段階で合流できたらしい。で、私と雷蔵が出てくるだろう地点に先回りしていてくれたんだとか。

「エリコちゃん疲れたでしょ、荷物持つよ」
「勘ちゃん……」

私は思わず、言葉が詰まる。

「ん?惚れた?」
「だから女の子に警戒されるんだよ……チャラいよ」
「そこ!?」

うそうそ、ありがとう。アイテムがぎっしり詰まった重いナップザックを勘ちゃんに預ける。うー、楽になった。

同じ距離を逃げてきたにしても、地上を走った2人と、現在地も終わりもわからない地中を進んだ私達とでは疲労度も違うだろう。

「ここ出たらどこにでるの?」
「オロゴスタの外だ。壁を越えるのは大変だった」
「ふぅん」

大変だったろうなぁ、組み合わせ的に。勘ちゃんと三郎かぁ。
いや、案外うまくいくのかも?三郎は神経質だけど、勘ちゃんが驚くほどおおらかだからね。

4人で土の通路を抜ける。外の空気はひんやりと澄んでいて、改めて、中は息苦しかったなと思った。

「エリコちゃん、泥だらけ」
「雷蔵もね!にしてもこの穴、誰がどうやって掘ったんだろう」

穴を振り返る。私たちが出てきてしまうと、中はもう真っ暗で、不気味な印象だ。こんなところを通ってきたのか……。

ちょうど、手元の魔法照明が音をたてて明かりを消した。時間切れかな。
もう役に立たないものだけど、置いていくのもまずいだろう。勘ちゃんの背中にしまおうとする手を、三郎にとめられる。

「それは置いていっていい。ここから逃げたことは向こうも知っている、というか、仕組まれたことだ」
「……まぁ、邪魔だし、捨ててくけど」

仕組まれたこと。

喜八郎くんはれっきとした、サルート異変調査委員会のメンバーだ。どうして見逃してくれたのか。
雷蔵も、中在家さんのことが気にかかっているのだろう。暗く、何も見えない通路を振り返っている。

「三郎、約束は覚えてる?」
「あぁ、私が知っていることなら話そう。ただそれは、今じゃない」

三郎が、月明かりを反射する草原を睨む。遠目に、キラキラと輝く水面が見えた。

海だ。

「時間がない。オロゴスタから離れるぞ」

勘ちゃんが首をかしげた。

「どこへ行こうってのさ?」

三郎がこちらを振り返り、険しい表情を緩める。逆光でよく見えないが、ニヤリと笑ったような気がした。

「王政府に絶対に干渉されない地だ。私の故郷へ、案内してやろう」