「七松さん、先ほどのメモは?」 「ん?もう食った」 「食っ!?」
た!?
なんだ。なんだろう、この人。野性味が溢れているというか、とにかく、その。
「馬鹿なんですか?っだだだだだ痛い痛いです!すんません!!」
思ったことを素直に発してしまったのであろうハチさんが、即座に七松さんの豪腕の餌食となる。やばい、悲鳴がうるさい。首が折れそうだ。
「……立花からのメモ?」
勘ちゃんが小さな声で呟く。七松さんはハチさんの頭部を解放して、首を横に振った。
「いや、違う!すぐ来ると思うぞ」
来るって、誰が?
私たちがここに閉じ込められて、どれ程の時間が経ったのだろう。狭い房の中、交代で身体を動かしたりはしているので身体は大丈夫だと思うんだけど、そろそろ精神的に参ってきたな。
そんな時だった。
「七松先輩!」
少年の声が小さく響いて、顔を上げる。
「滝!助かったぞ!」 「まったく、この私にここまでさせるなんて……今開けますから。そこの方、少し下がって」
なんだ、この美少年。七松先輩、ってことは……えええ……この人の後輩?こんな美少年が?びっくりなんだけど。
言われた通り下がった勘ちゃんと、少年の手元を見守る。魔法道具が発動する独特の音と共に、パキリという音がして、まさか錠をぶっ壊したのか?さすがだ。さすが、七松道だ。
「金吾がいて助かりましたよ……本当に」 「あいつはここで顔が広いからな!道はわかっているのか?」 「えぇ、こちらです」
そこで、七松さんが私たちを振り返る。
「そんなわけで、私は行くぞ」 「……え、は、はい」 「お前らが悪いヤツだとは思えん。勝手にしろ」
それは、つまり、悪いヤツ認定されてたらこの瞬間にフルボッコだったんでしょうか。
「いいんですか?立花さんにまた怒られても知りませんよ」 「しばらくサルートには行けないかもな!」 「頼むから、頼むから私たちに被害がないようにしてくださいよ!」
滝と呼ばれた少年と七松さんが小声で言い合いながら房を出ていく。
勘ちゃんと、目線を合わせる。考えるまでもなかった。
「行こう」
私たちも、外へ。
敵と思われる姿なども一切なく、いかにも裏口へ続いていそうな通路を足早に進む。 滝くんの案内がすごいのだろうか。七松さん、何者だかわからないけど、ツテはかなり強いんじゃないか?これ。
「早くこちらへ」
最後のドアを開けて、滝くんが小声で促す。 軽く頷いて進む七松さんに続けば、外で待っていたのは。
「雷蔵!?」 「無事で良かった。きり丸達に会えたから頼んだんだ」
私と勘ちゃんの武器を抱えた雷蔵がいた。
え!?
雷蔵、なんでいんの!?
「早くこっちへ。今この街は大変なことになってるんだよ」 「まぁ、その混乱に乗じての救出劇でしたけどね!しかしこの滝夜叉丸にお任せくだされば、そんな混乱などなくとも華麗に七松先輩をお救いできたでしょうが!なにしろこの私ときたら、」 「滝、金吾は?」
雷蔵の柔らかな言葉に続く滝夜叉丸くん?の話を、七松さんがあっさりぶった切る。 今、すごいやり取りを見たぞ。
「……そこの人に任せていたはずですが」 「金吾くんなら、きり丸達と一緒にいるよ。滝夜叉丸、彼らを助けてくれてありがとう」
道を進みながら、雷蔵に手渡された装備を手早く身につけていく。
突然ですが、ここでイカれたメンバーを紹介しよう。
回復担当、私! (多分)剣士、勘ちゃん! (吟遊詩人で)殴打担当、雷蔵! ヒッポグリフ飼育員、ハチさん! 謎の人物、七松さん! おそらく七松さんの舎弟、滝夜叉丸くん!
以上だ!多いぞ!!
「ちょっと待って、この人数は目立つ」
私と考えることが一緒だったのか、勘ちゃんが言う。
「そんなこと言ったって……僕らはまずきり丸と合流しないと。七松さん達も、金吾くんと合流するんでしょう?」
そこで雷蔵がハチさんを見る。
「俺は……ヒッポグリフ二頭が心配だ」 「それなら、抜かりなくきり丸が保護してるよ。あの子、強かだから、お代は覚悟した方がいいと思うけど」
つまり、ハチさんも、きり丸くんの元へ向かう、と。
全員、向かう先が一緒なんだよね。
「ただ、やはりこの人数は目立つな」
七松さんが腕を組む。 私は滝夜叉丸くんを振り返った。
「口頭でいいから、この街のだいたいの地形を説明してもらえる?それから、きり丸達と合流するためのルートがいくつあるのかも」
彼は浅く頷いて、すぐに説明してくれた。
なるほど。
「三手に分かれよう」 「……マジで言ってる?」
勘ちゃんの顔がひきつる。
「だって、……泳いで行くのと、地下水路は、ちょっときついんじゃない?」 「頑張って。私は路地裏を選択」
ここは海沿いの街だ。というか、海の上にせり出して作った上部と、地上部分である下部に分かれているらしい。
目的地は、上部。魔道装置の、いわゆるエレベーターはおそらく使えない。使わない方が賢明でしょ。 あとは、軽く泳いで行って海上の柱から上部へ登るか、下部の路地裏からひたすら階段、あるいは、これも下部から、地下水路を進めばなんとか上部の地下へ出るだろう。 という話。
「地下水路って、つまり下水道でしょ!?」 「じゃあお前は泳ぐんだな!」
七松さん、勘ちゃんがサルート出身ってわかって言ってるのかなぁ。だとしたら、酷な話だ。
「……地下を行く人には私が同行しましょう」
滝夜叉丸くんはさっさと自分のチーム分けを発表。そりゃそうだ、道がわかる人がいた方がいい。
「じゃあ、雷蔵がエリコと一緒に階段登ってやれよ」
ハチさんももれなく、泳ぎはできない方だろう。ヒッポグリフの街出身だ、泳ぐ機会がなさそう。
七松さんが泳ぎ、勘ちゃんとハチさんが滝夜叉丸くんの道案内の元地下の下水道、私と雷蔵が安全な地上ルートかな。
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