昨日の朝ヒッポタウンを出発、恐ろしく足の早いヒッポグリフに先を急がせ、昨夜は小さな村で1泊。 今朝も日が登りきる前から慌ただしく沼地をやはり南東へ抜けて、お昼をとってからさらにヒッポグリフを走らせ、今。
「なんでこんなことになってるの!?」
ヒョウゴタウンと呼ばれる港町で、私たちは包囲されています。 相手はどうやら水軍さんたちらしいのだけど、目つきは悪いし傷だらけだし、これ完全に海賊とやらじゃないですかー。
仕方なく、武器を捨ててハンズアップ。勘ちゃんも諦めたように、剣を投げ捨てた。
……あれ、雷蔵は?
雷蔵がいない!?
「アニキー!もうひとり仲間見つけました!」
雷蔵どこだよ!と思ってたら海賊さん、もとい水軍さんが2人、仲間を連れてやってくる。
雷蔵じゃねぇ……。
「ハチさん、なんでそんなことに!?」
先ほど、じゃあ俺こっちだから!がんばれよー!と別れたハチさんだった。ヒッポグリフはどこへ?そして雷蔵はどこへ?
雷蔵マジで……いつからいないんだ……?
「あのー、俺ら別にあやしいもんじゃないんだけど」
勘ちゃんがハンズアップしながら朗らかに言う。朗らかすぎる。もう少し緊迫感をだな。
「あやしいかどうかはお頭が決める」 「オカシラ」 「来い、こっちだ」
リーダー格らしいお兄さんが歩き出すので、我々3人も手を挙げたまま進む。
どうしてこうなった……。サルートを出てから人が住む場所は3箇所目、ヒッポタウンでも小さな村でも温かく出迎えられてきたので、対処法がわからない。あと雷蔵どこいった。 仲間がどこにいるかわからないというのは、かなりの不安だ。いやほんとに。
「牢屋は人生2度目だなー」 「勘ちゃんほんと呑気ね」
RPGでいうところの暗転、明転って感じで、場所は変わりまして水軍さんたちの屋敷の地下です。私RPGやったことないけど。RPGってなんだろうね。
サルートのスラム街、中在家屋敷では牢は1階だったけれど、この屋敷では正しく地下牢だ。今回は気絶してない。 かなりジメジメして暗いけれど、松明ではなく魔法照明だから空気の汚れは感じられない。というか、ひんやりした空気がある意味過ごしやすい。
私たち3人は、やはりまとめてひとつの牢に突っ込まれている。ベッドは4台。私、女性なんだけどなー……。
「ハチはどうして捕まったの?」
勘ちゃんがさくさく装備を外しながら言う。居座るつもりか。早めに脱獄しようよ。
「街の出入口のとこでお前らと別れたろ。そこで、やっぱ食料買ってから行こうかなと思ってヒッポグリフから降りて、すぐ」 「あちゃー。私たちが捕まったタイミングかな」
ご迷惑をおかけします。いえいえこちらの責任ですから。 ハチさんと2人で頭を下げる。
にしても本当、雷蔵どうしたのかな……。
「さて、装備の確認したいね」
勘ちゃんが言うので、取り上げられなかったナップザックをベッドに広げる。 それから、こっそりポケットにしまいこんだ魔石も。 それを見て勘ちゃんは短く口笛を吹いた。
「エリコちゃん、魔石とられなかったんだ?」 「ナイフとバングル渡すときに、こそっとね」
そこら辺はしっかりと。私の魔石は練度もあがって、輝きを増してきてる。立派な貴重品ですから。
「でも、はめ込む装備がないと使えないだろ」
そう言うハチさんは、失礼だけどろくな装備じゃなかった。武器の類は一切なく、食料やなんかの備品しかない。 まぁ、あるだけ有難いけど、脱獄には向かないなぁ。
「あとは暗器かなー」 「あ、鎖みたいなやつ?マンリキサだっけ?」 「そう、それは取られてないよ」
まぁ……刃物じゃないからね。
「暗器なら俺もあるぜ」 「なんだよお前ら忍者かよ」
サルート貴族とヒッポグリフ飼育員だろ。かくいう私もスラムの飲食店オーナーなんですけどね。私は忍者してないからね。
そのまま3人でポツリポツリと話すこと、どれくらい時間が経ったのだろうか。 窓もなく、照明器具は常に一定の明るさなので、時間がわからない。
眠いと言い出した勘ちゃんに従い、3人ともベッドへ横になる。
「一応言っておくけど、変なことしないでね」 「エリコは何を言い出してるんだ?」 「多分ねー、俺に言ってるんだよね、あはは」
勘ちゃんと私はそれぞれ1番端のベッドを選択。ハチさんは勘ちゃん寄りの真ん中へ。
「じゃ、おやすみ」
見張りに起きている必要もないし、牢屋ってのはある意味で安全な場所だ。 明日あたり、そのお頭とやらに会わせてもらうか、無理なら脱獄も考えようね。そう言おうとしたときには、環境に安心しきっている私は眠りに落ちていた。
「だ、だれ?」 「起きろ!私だ!」 「だから、誰ー!?」
不幸なことに3人の内でまっさきに目覚めてしまった私は、慌てて勘ちゃんとハチをぐらぐらと揺さぶりつつ、今しがたこの牢に放り込まれた人物と対峙していた。不幸すぎる。
「勘ちゃん、ハチさん!起きてってば!人が増えたの!」 「ん……雷蔵?」 「違う!」 「私だ!」
ワタシダさん。誰だよマジで。
やっとこさ起きて、その人を見て、少しは警戒の目をした2人を前に、その人はにかりと笑ってみせた。
「私を知らないのか?私は七松小平太だ!」
だから、ほんと、誰だよ!
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