意外に、コカトリスの肉は、イケた。
「下手すると鶏よりイケる」 「なんか硬いものがでてきたけど」 「雷蔵、それコカの爪じゃね?」
雷蔵が顔を青ざめて口からなんか取り出す。あちゃあ、コカトリスの鉤爪の破片ですな。
私は慰めつつ、コカトリスのもも肉とやらを咀嚼する。
いや、これはなかなか。美味しいじゃないですか。
「で、頼みがあるんだけど」 「おう」 「悪いんだけどさ、モンスターがなんででたのかーとか、知ってる?」
勘ちゃんがめちゃくちゃ軽いノリでハチさんに聞く。 ハチさんは、うーんと唸ってフォークを置いてしまった。
「難しい話だなぁ。そん頃から生きてる人らも減ってるし」
それは、そうだろう。50年も前のことだ。 モンスターの出現で人間の数は激減したというしなぁ。
「うちも老人はひとりもいないんだ」 「そっかー……」
スラムで長老と呼ばれている男性には私も会ったことがあって、話は聞いたことがある。 実際には長老でもなんでもないおじいちゃんなんだけどね。戦時は、15歳くらいだったそうな。
とにかく人々は、唐突な新種の生物の出現に、為すすべもなかったらしい。
「よそからの客ならだいたい俺がもてなしてる。モンスターに関する研究してる都市もあるらしいぜ」
だいたい食事が終わった頃に、ハチさんは1度席を立って大きな1枚の紙を持ってきてくれた。 羊皮紙のような……明らかにモンスターの皮をなめして作ったような紙だ。
「これが、一昨年死んじゃったヒッポのじーさんが作った、世界地図」 「おおお……!」
世界は、私が知るよりずっと広かった。
「ここの赤い印がヒッポタウン。お前らがいたサルートってのは、これのことかな」 「大きいね……壁の形だ、これがサルート」
しかし、この世界全体の中じゃ、サルートはちっぽけだった。
雷蔵も勘ちゃんも、何も言わない。
きっと2人とも、サルートから離れたこともなければ、サルート以外の都市を知らなかったんだろうな。
「……壁があるのは、サルートだけなのかな」 「さてな。ここ、この北の端は、じーさんも知らなかった。戦前も未開の土地だったらしい」
ハチさんが指さしたのは、何も書かれていない、紙の上部だ。
「他の都市は、壁がなくて、どうやって生活してるの?」
私は1番気になるポイントを質問してみる。
サルートが大きく、安全で、栄えているのは、壁があるからだ。 その恩恵に預かって、スラムも成立していた。もちろんモンスターの襲撃は度々あったし、その都度人は死んだけれど、私や雷蔵のように長くスラムで生きてきた者もいる。
全ては壁があったからだ。 戦時中、要塞都市となるべく、長い時間をかけて壁の基礎が作られていたからだ。
正直に言って、このヒッポタウンですら、壁なしで生活しているということも信じがたい。
「まさか、すべての都市にヒッポグリフが?」 「いや、ここだけだぜ。グリフォンの子孫は」
グリフォンは希少種なんだと、ハチさんが苦く笑う。
勘ちゃんが、ガタリと音をたてて立ち上がった。
「見に行こう」
……。
「は?」 「見に行こう、この印の場所を、全部。探すしかないんだ」
探すしか、ない。
不思議と、雷蔵もハチさんもそれに同意しているようだった。
「……これを、全部見に行くの?」 「それしかないよ」
どうして2人はこんなにあっさり勘ちゃんに同意できるんだろう。なんで迷わないの。
まぁでも、仕方ないか。
「おっけー、じゃあとりあえず近場のここからかな」 「え、これ沼地通るんじゃない?」
あー、確かにそうかも。
でもここから徒歩で行ける範囲となると、この街?しかない。この地図を見る限り、サルートだけは壁の形に大きな円ができてるけど、他の場所は印がついてるだけだから都市の規模はわからない。
「……よし、仕方ねーな」 「え」
ハチさんがくるりと地図を丸めてニヤリと笑う。
「俺もこっちの方に出かける用事があるんだ。2頭なら連れて帰れる。……ここまで、ヒッポグリフに乗せてってやるよ」
やだ。……ハチさん、男前。 ちょっとキュンとした。
そして、午後。 「出発は明日の朝だ。俺は午後もヒッポグリフの世話があるんだが、お前ら手伝ってくれるか?」とのお言葉に、まぁヒッポグリフに慣れるためにもいいかもしれない、と街の外へ着てみたけれど。
「無理無理無理無理なにこれ怖い怖い怖いクチバシついてる絶対モンスターだよ目つきヤバイって」 「あっはっは!!こいつ俺の手噛んだよ!めっちゃ血でてる!!」 「結構大人しいんだねー」
すんなりヒッポグリフを手懐けた雷蔵のようにはいかなかった私と勘ちゃんは大変だった。 勘ちゃんは何故か楽しそうだけど。回復の魔法をかけておくけどさぁ……なんで手の骨折られてそんな笑ってられるの、この人。頭おかしい。 あと雷蔵もなんかおかしい。なんでそんなほのぼの触れ合えるんだよ。
「勘右衛門は雷蔵の後ろかな」
それを眺めながら、ハチさんも呑気だ。いや絶対おかしいよ、焦る場面でしょ、これ。
「う、わ、こっち見てる」
ヒッポグリフの視線を感じてハチさんの背中にしがみつく。
だって、完全に獲物とらえた目じゃん。
「はは、エリコは俺の後ろかな」
振り返って笑うハチさんの爽やかさに、目眩。
どうしよう。惚れたかもしれない。
でも相変わらず、旅のメンバーはヤバイです。あとそろそろ女の子欲しい。
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