ハチさん宅で一晩お世話になり、翌朝。

「パンだ!」
「小麦どこで育ててるんだろうね、すごい」

朝起きたらハチさんの姿が見当たらなくて戸惑ったけれど、食卓には3人分の朝食が並んでいました。

食べていいものと判断し、もっちゃもっちゃとパンを咀嚼する。雷蔵の「食べていいのかな?」には勘ちゃんが「駄目なら後でお金払う」で片を付けました。

勘ちゃん、やっぱり、おぼっちゃまだよねぇ。

「あー美味しかった!パン好きだわやっぱり」
「スラムのパン固いしねー」

食べ終えて、雷蔵とほのぼのする。水分なしで食べれるパンなんて久々に食べたよ。

「あ、これ牛乳だ!」
「マジで!?牛もいるのここ!?」

小さい街だと思ったけど、案外すごいなここ。
勘ちゃんが発見した牛乳を、やはり勝手にいただく。だって……木彫りのコップ、3つ置いてあったし。

「やばー、本物の牛乳久しぶりだわ」

スラムには偽物の方が流通多いからね。

「マジ?俺毎朝飲んでたよ」
「サルートの壁内と外を一緒にしないで」

そんなことを話していたら、ドアの開く音。

「ハチさん?」

勘ちゃんと雷蔵が動く気配を見せないので、私が立ち上がって玄関を覗く。

そこにはボサボサ髪の優しい家主ではなく、多荷物を背負った少年が。

「竹谷先輩に頼まれて来ました!」

誰だ、そいつ。

「……ハチさん?」
「竹谷八左ヱ門先輩に頼まれて来ました!」
「たけやはちざえもん」

確かに名前にハチが入っているが。
確かに入っているが。

そんなに名前、長いのかよ。

「僕は夢前三治郎です!」
「さきさんじ」
「三治郎です!」
「おっけー、三治郎くんね。今残りの2人呼ぶわ」











「へー、ハチさんは朝からモンスターの世話を」
「モンスターじゃありません、ヒッポグリフです」
「なるほどねぇ」

そういえば街に入った瞬間に、そんな言葉を聞いた気もする。

「……ヒッポタウンについては、あまり知らないですか?」
「うーん、そんな感じ」

そこから三治郎くんは、この街について説明してくれた。

グリフォンというモンスターから話は始まる。ライオンの胴体に鷲の身体がくっついたようなモンスターだそうな。
そのグリフォンと雌馬の間に生まれるのがヒッポグリフ。馬の胴体と鷲の身体を持っている。

この街は、すべてヒッポグリフのおかげで成り立っているらしい。
ヒッポグリフはとにかく足が早いので、足として使えばまずモンスターに追いつかれることはない。
餌もばかすか食べるというわけでもなく。
しかも、自然生物とモンスターの間の子なので、モンスターに嫌われている。

つまり、昼間は街のまわりに放し飼いしておけば、街が安全。

「え、でもそれ夜は?ヒッポグリフ逃げちゃわない?」
「ここらには夜行性のモンスターはいませんから。夜は街の中で眠らせています」

ま、まじか。

そこで勘ちゃんと雷蔵と顔を見合わせる。

「野宿の度にまわりにモンスターよけの薬を撒いていたのは……」
「つまり……」
「……2本も無駄にしたのか」

2回、野宿しているからね。

そんな会話を聞いた三治郎くんが得意気に荷物を広げ始める。

「モンスターが嫌がる臭いの薬品なら、在庫はたっぷりです!なんせ、ヒッポグリフの街ですからね!」
「在庫?」
「僕は商いをしているんです」

ピンときた。私、今すごく冴えてるかもしれない。

「三治郎くんさ、きり丸くんって名前のお友達いる?」
「あ、きり丸の知り合いですか!?」

おやおや、これはこれは。

きり丸くんと年も近そうだし、商いをやっているとなればね。
各地に友達がいるから、買うならそこで買ってくれときり丸くんに頼まれた。
元々きり丸くんに先輩と呼ばれていた雷蔵なんかは、急に三治郎くんに親近感が湧いたみたい。

「じゃあその薬品以外にも、いろいろいただこうかな」
「はい!ぜひ!」

そこから先は、楽しい楽しいお買い物タイム。
きり丸くんのお友達というだけあって、三治郎くんはなかなか商売上手でした。さすがです。

そんなこんなしていたらハチさんがご帰宅。

「おー、三治郎!悪いな、出張させちまって」
「いえいえ、竹谷先輩が知らせてくれないと外のお客さんには会えないので」
「昼メシ食ってくだろ?手伝ってくれよ」

そんなハチさんの背中には、ぐったりしたコカトリスが。

で、でかいぞ。ワーウルフほどの質量はないと思うけど……まるまる太ってるよ。

「さばくんですか、やります!」

ぴしりと、空気にヒビが入った気がした。

「鳥肉久々だからなー、まぁ5人分はあるだろ、こいつで」
「……鶏肉?」
「鳥肉」

鳥の、肉。コカトリスは、まぁ、鳥っぽい見た目のモンスターですけれども。

「雄の鶏は高いからなー、コカで我慢してくれよ」

爽やかにコカトリスを裁断するハチさん。

す、すげぇ。モンスターの肉食べようとかいう発想、私だけじゃなかったのか。

ていうか、本当にこの人たち人間なのかな……余計に不安になってきた。