「近くなってきたねー」
「昨日はただの小屋に見えてたけど、あれかな?結構街になってるみたい?」

ひたすら東へ進むこと半日。

ちなみに今は、雷蔵の背中に背負われています。エリコ、男性におんぶで旅は、人生初体験でございます。

なにしろ、この人たち体力あるんだわ……。そして足が早すぎるんだわ。
めっちゃ進む。戦ってるのに。めっちゃ進む。私より戦ってるのに。
いやほんとどんな身体作りしてんのか知りたいレベルなんだけど、走り続けるのね。東にね。途中で戦いつつね。

勘ちゃんは剣の腕前も達者なのでその体力もまぁ納得いくとして、私をおんぶして半日走っててまだ疲れが見えない吟遊詩人さんは、絶対何かがおかしい。

「夜にはたどり着けそう?」

草原で野宿二連発にだいぶ疲れていた私はのんびりと聞いてみる。雷蔵の背中から。
ゆっくり喋らないと、ここ結構揺れるから、舌を噛む。

「いけるんじゃない?このペースなら」
「あ、なんかウルフ系きてんねー」
「よっしゃー!アールウルフいるかな!でかいの殴りたい!」

勘ちゃんはなんだろう、溜まってもいないストレスをモンスターにぶつけて発散してる感じ。……強いから何も言わないけど、それってどうなの?

本当にモンスターが近づいてきたので、雷蔵にぺいっと捨てられる。お約束の展開に私も慣れてきているので、うまいこと着地できた。

あ、アールウルフ一体いるじゃん。おめでとう勘ちゃん。












「本当に着いた……」
「うーん、宿みたいなとこはなさそう?」
「人結構いるよ」
「でも皆、人間なのかな」

ぽつりと呟いた私の言葉に、雷蔵も勘ちゃんもぴたりと足を止めて私を見る。

……え、あれ?マジに受け取られた?

「エリコちゃん、怖いこと言わないで」
「えっえっ」
「……サルートから離れた場所に、人間が、人類が残ってるなんて聞いたことないしね」
「は!?雷蔵何言い出してんの!?皆さん人間に決まってんでしょ!」

やだ、信じるなんて思わなかったのに。この人たちジョークも通じないの。

「でもだって……ここまでモンスターいっぱいいたし……」
「勘ちゃんに外の話してくれた人は東から来たんじゃなかった!?」
「あ、そっか」

とりあえず立ち止まっていても仕方がないので、2人をうながして木でできた門をくぐる。
すぐ内側には軽く武装した人がいて、会釈してくれた。

「ようこそ、ヒッポグリフとグリフォンの街、ヒッポタウンへ」
「え、あぁ、どうも」

……よかった、人間だった。

「運がいいですね。そろそろ鐘が鳴ります、鐘が鳴ったらこの門は閉めるんですよ」
「間に合って本当によかったね!?」

つまりこの人は門番さんなのかな?門兵さん?
3人の内じゃダントツにコミュ力の高い勘ちゃんが、門兵さんに軽やかに話しかける。

「もーほんとここまで大変でしたよ!ねぇねぇここって泊まれるとこある?屋根ついてたらどこでもいいんだけど!」

コミュ力高いというか、勢いがつきすぎともいうけどね。

「あ、もちろん宿代は払うからさ!あと美味しいご飯と美味しいお酒があったら最高!」

門兵さん、若干ひいてるんだけど、ちょっと勘ちゃん?

「ここには、宿を経営している家はありません。外からのお客人を受け入れている家なら何軒かありますが……」
「マジ!紹介して!」

そのタイミングで、鐘の音が聞こえた。門兵さんが門を振り返る。

「今、門を閉めますので。それからご案内します」

とりあえず、お風呂と屋根にはありつけそう。












結果的に言うと、案内された家はかなり居心地が良かった。

「これだけの広さの家に一人暮らしだから手入れが行き届いてない部分も多くて、申し訳ないくらいなんだが」
「いや、屋根があるだけで」
「いや、布団あるだけで」
「いや、お風呂借りれるだけで」

3人ほぼ同時に言う。おかげでほか2人がなんて言ったのかよく聞き取れなかった。

暖かく出迎えてくれた若い男性、ハチさんはキョトンとした後、快活に笑ってくれた。

「おう、汚い家だが確かに屋根も布団も風呂もある。できるだけ快適に滞在してほしいからな、不便があったら言ってくれ」

なんて出来たお人なんだろう……すごい、いい人オーラだ。

「今から夕メシ作るところなんだ。そちらの、あー、」
「エリコです。どうぞよろしく」
「よろしく!エリコは先に風呂使う?」

なんてありがたい申し出だろう。すごい、いい人だ。

「ぜひ……!」
「すぐ準備するから待っててな」

それから私はハチさんのお宅のお風呂を借りてサッパリ。
木造の家で、本人が言うように確かに古びた印象はあるけれど、埃は一切ないし、だされたタオルも清潔だった。かなり好感が持てるというか、いっそここに住みたい。

ほ、本当に人間だ……ジョーク言った私が不安になってるのも変な話だけど。

髪の毛からきちんと水分をとって、軽装備で最初に通されたリビングへ戻る。
家中で美味しそうな匂いを感じていたけれど、食卓には見た目も美味しそうな料理が並んでいた。

「エリコちゃん、サッパリできた?」
「うん!もー、サッパリ!お先にいただきました、ありがとうね」

3人がいただきますの準備万端だったので、慌てて私もあいた席につく。

4人で手を合わせて、いただきます。