雷蔵は浦風くんと鈍器で殴り合い、勘ちゃんは立花さんとつばぜり合い。

どちらも拮抗している。
それをぽかんと後ろから眺めて、さてどうしよう……と私が選んだ一言は。

「わ、私のために争わないでー!」
「エリコちゃん、戦ってくれないかな!?」

あ、やっぱり?1度言ってみたかったんだよね。

とりあえずバングルを押さえて、たまには魔法援助くらいはね。

「ちょっと!俺に当たりそうなんだけど!?」
「わーごめん勘ちゃんよけて!」

戦闘中の魔法援助は、結構味方にも危険。ひとつ学んだ。











タイミングを見て、勘ちゃんが立花さんを強く蹴り飛ばす。その隙に勘ちゃんに回復魔法を飛ばし、すぐに浦風くんに雷魔法を飛ばした。くらえ、サンダー!ちょっとしょぼいけど!

「っ行くよ!」

立花さんが立ち上がるのも、浦風くんが電撃ビリビリから回復するのも待つつもりはない。
そこらにまとめておいた3人分の荷物を引っつかみ、草原を走る。

振り返る余裕はないけど、足音が2人分。……立花さん達だったら嫌だな。

「ちょっと待って!ストップ!」

聞こえた声は雷蔵で、ちょっとホッとする。

「どうした!?」
「追ってきてる!」
「俺に任せて!とりあえずもうちょい走って!」

勘ちゃんがそう言うもんだから、草原を走る走る。私体力ないし、バテそう。

大きな木が見えたので、走り寄ってその陰に転がり込む。これ以上は無理っす。

「俺の荷物!」

勘ちゃんの荷物を投げ渡す。彼はすぐに中身を探り、何かを取り出した。

一瞬だった。

勘ちゃんを中心に、半径3メートルくらいの場所に薄い膜ができるのがわかる。

なに、これ。

そうこうしている間にも立花さん達は追ってきている。大丈夫なの、これ。

「……藤内!」
「はい!着いてきてます!」

ほらー、来ちゃったじゃん。

木の幹に背をあずけ、出来る限り息を殺す。雷蔵がゆっくり、音をたてないように琵琶を構えた。

「見失ったか」
「魔法道具ですかね。どこかへ移動したんでしょうか」
「可能性はある。……だからスラムで魔法道具を流行らせるなとあれほど長次に言ったのに」

まさか、気づいていないのか。
私達の視線の先で、立花さんがゆっくりとあたりを見渡している。
その視線が、私達の上を、するりと通過した。

「仕方ない、引き上げるぞ」
「はい」
「どうせ行く先はわかっている」

彼らは本当に徒歩で来たんだろうか……。さくさくと草を踏む音が遠ざかっていく。

その音が聞こえなくなって、さらにしばらく待って、まず勘ちゃんが大きく息を吐き出した。その手には、開封された小瓶。

「勘ちゃん、いいもの持ってたね」
「いいもの持ってたのはきり丸くん!本当に買っといてよかったー」

なるほど、あの時買ってたのはこれか。いや、買って正解でした。勘ちゃん様様だ。

「……とにかく、進むしかないのかな。でもあの人、行く先はわかってるって言ってたし、うーん……」

悩む雷蔵を見て、勘ちゃんと視線を合わせる。

「どうする?勘ちゃん」
「エリコちゃん的には、東以外に選択肢は?」

木の影から這い出して、あたりを見渡す。

見渡す限りの、平原だ。……東の方に、遠く、小屋のようなものは見える。

「東しか、ないね」
「だよねー」

調査委員会は盲点だったな。まさか、立花さんがまだ私を追ってるなんて。

意味ないって、あんなに言ったのになぁ。

「行くか」
「うん」
「雷蔵、行くよ。東に」

まぁ何はともあれ、進むしかない。
勘ちゃんはこの世界を救うビジョンが見えてるみたいだしね。この先立花さんにまた追いつかれたとして、私が囮になれば勘ちゃんは先へ進めるだろう。

とにかく、進むしかない。












そしてその夕方。

「さすがに風呂入りたいわ」
「さっき見つけた温泉行く?一緒に」
「いや一緒には行かないわ」

簡易なべで簡易食を作りながらグダグダと話す。もうだいぶ日もくれてきた。

「エリコちゃん身持ち硬いなー」
「勘ちゃんが緩すぎるんだよ」

雷蔵は琵琶の弦をいじりながらおっとりと言う。一応、手持ちのモンスターよけの薬は周囲に撒いておいたので、今夜は安心して眠れるはず。
この薬が切れたら、旅はずっと怖くなるよね……あんまり考えないでおこ。

「できたよ、シチュー」
「やったね!何味?」
「秘密」

秘密にしておいた方がいいだろう。味付けはまともなんだけど、具がね。ワーウルフの肉、いれちゃったからね。
適当にうさぎでも見つかればいいんだけど、どうしてなかなか、モンスターにやられるのか自然の動物はほとんど絶滅している。
昨日の晩は肉なしだったんだけど、男性陣は二人とも足りなかったみたいだから……直接は言われてないけど、表情が物足りないって言ってた。

なので、2人が戦ってる間に、ワーウルフさばいてみました。てへ。

多分バレてないはず。ちょっとドキドキしながら小皿によそって2人に渡す。

「じゃあ、食べようか」

3人手を合わせて、いただきます。

「おっ、美味しい」
「昨日より具が多いね」

さすがにバレるかな……そわそわしていることを隠すように、私もシチューをずずっとすすった。

うん、味は悪くない。ちょっと、ワーウルフは、臭みがあるけど。
万能調味料、コンソメ様を多めにいれたから目立ってない。いける。

「やっぱエリコちゃん誘ってよかったー!俺サルートの中でこんなん食べたことないよ」

サルート内部では牛も豚も育ててるし食肉の流通があるもの……。そのおこぼれをスラムでもいただいていました。

ともかくも、モンスターの肉いれたことはバレてない。よっしゃ、今後もこれ続けてこ。