「目的地は?」 「まず東!俺に外の話してくれた人は東から来たからね、そっちには街もあるし情報もある」 「おっけー」
勘ちゃんに従って3人で東へと歩みを進めたんだけどね。
この2人、強すぎ……。
しかも私が役に立たないおかげで、どんどん2人が強くなっていくのがわかる。レベルアップ!の黄色い文字が2人の頭上に見える気がする。いや見える。
雷蔵さんに至っては、ジョブは吟遊詩人だったはずなんだけどね。襲いかかるワーウルフやゴブリン共を、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……シメに琵琶でゴウンと殴る。っょぃ。
一応冒険パーティーのヒロインぽく、回復役に徹しているのだけど、驚くほど仕事がない。逃げ惑うことしか仕事がない。
さっき、モンスターを斬りながらポーションを飲む勘ちゃんを目撃した。酒を飲みながら戦う海賊にしか見えなかった。そりゃ、回復役とか要らないわ……。
「2人とも、強くないですか」 「え、そう?」 「うーん、強いって言われてもあんまり嬉しくないかなぁ」
てれたように笑ってる場合じゃないですよ、お二方。
「雷蔵は、今度、それ弾いて歌ってよ。琵琶」 「あ、これリュートって呼んで」 「そうなの?ごめん」 「まぁ、琵琶なんだけど」
どっちだよ。確かに琵琶とリュート、形そっくりだけどさ。
一晩野宿して、さらに半日ほど歩いた頃だったか。
「いやーほんと外はすごいね!ね!」 「な、なにが?」 「モンスターたくさんいる!」
常に元気な勘ちゃんが、これまた元気よくアールウルフを踏みつけながら言う。 ワーウルフ倒してるときもめちゃくちゃ元気だったんだけど……この人元気なくなることないの……。
「勘ちゃんは壁内出身かー。外、知らなかったんだね」
雷蔵の方は珍しく、琵琶をぼろんぼろんかき鳴らしながら後衛に徹している。なにしろ勘ちゃんが強すぎる。 雷蔵の琵琶はモンスターにのみ効果があるらしく、近づいてきたウルフ系は皆眠りに落ちてしまうので、私はそれを魔法で燃やすだけだ。
歌わなくて、いいのかな、雷蔵……。琵琶?リュート?弾きながら普通にお喋りしてるんだけど。もう琵琶でいいや。
「それにしても、エリコちゃんすごいね。野宿、平気なんだ」 「いや平気なわけじゃないんだよ」
さすがに元気なくなってるよ。勘ちゃんがおかしいだけ。 雷蔵とほのぼのトークタイム。最後の1匹は勘ちゃんが倒してくれてた。
そんなときである。そんな、ほのぼのタイムの真っ盛りである。
「おや、こんなところで会えるとは」
私達が背にしていた方向、つまりサルートの方角から涼やかな声が聞こえる。
「あんた誰?」
勘ちゃんにしては珍しく、警戒のにじんだ声だった。この人警戒することあるんだ……。
でも、気持ちはわかる。だって声かけてきた人、明らかにおかしいもんね。
「エリコ。生きていてくれて良かったよ」 「超腹立つんですけど」 「エリコちゃん、知り合い?」
あまり認めたくはないけどね。寄ってきた雷蔵に、うんと頷く。 雷蔵はこの人を、立花さんを知らないのか。
「サルート政府直属、異変調査委員会統括の立花だ。初めましてになるかな、尾浜勘右衛門」 「……俺のこと、知ってんだ」 「そりゃあ、知らない方がおかしいんじゃないですか!」
立花さんの脇から声をあげたのは、まだ幼く見える少年。
「とーないくーん!!元気してた?」 「エリコさん、僕を子供扱いするのはいい加減にしてください」
あらら、辛辣だ。立花さんに追っかけ回されていた日々、調査委員の子たちとは結構交流があったと思うんだけどなぁ。
「だいぶ苦戦していたようだな?」 「立花さん、目ん玉腐ってんじゃないの?勘ちゃんと雷蔵は無敵です」
いや、誇張も冗談も抜きにして、この2人の肉弾戦はマジで無敵です。 おそらく立花さんも先ほどの戦いを見ていたんじゃないかな……。だって、私の無敵発言になにも返さなかった。
雷蔵が訝しげに、琵琶を構える。
「そちらは、サルートからここまで徒歩でいらしたんですか?」
そう、立花さんと浦風くんの立ち姿は、こんな場所で会うにはあまりにも綺麗すぎる。 徒歩で来たのかもしれない、だけど、どう見てもモンスターとの戦闘は挟んでいない。
「まぁ、その辺はいいだろう。こちらもあまり時間がないのでな」
立花さんが、腹が立つほど麗しい声でおっしゃる。その横で、浦風くんが武器を構えた。
「エリコはサルートにいていただかないと。スラムにいさせたのはこちらの温情だったことを忘れられては困るな」 「それはつまり、エリコちゃんを連れ戻しに来たのかな?」
勘ちゃんも、ザッと武器を構えた。
「エリコちゃん、ワケありみたいだね」
勘ちゃんが薄く笑う。話してなくてごめんね……まさか調査委員が追ってくるとは……。
しかし、この場で1番キレていたのは、実は勘ちゃんでも私でも立花さんでもなかったようだ。浦風くんでもない。
「……サルート王政府の機関だって言ったね。スラムの人々を壁の内側へ入れようとしない、貴族主義の……ゴミが!!」
戦闘の火蓋をきったのは、雷蔵さんでした。
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