愛する存在
今日は、王女ナタリアと、兄のローレンの婚儀が行われる。
屋敷中は、朝早くから俺達家族の出席する準備で、バタバタと大忙しだった。
俺もあまり慣れない礼服に身を包み、共に出席するルークの準備が終わるのを待っていた。
「お待たせ致しました。ルーク様の準備が整いました!」
メイド達の声に、屋敷の者が一斉にルークに注目する。
綺麗な淡いピンク色のドレスを身に纏い、髪止めにリボンといった、女の子らしい格好に、ほんのりメイクも施され、ルークはちょっと窮屈そうで、困ったようだった。
あまりのその姿の可愛さに、俺の心は高鳴り、鷲掴みになっていた。
屋敷中からも、賛美の声が上がる程だった。
「まあ、可愛い〜。ルークはピンク色も似合いますね」
「うみゅ〜…。おはよう…ゴザイマス、母上。俺、この服ちょっと窮屈すぎて…」
ルークの「俺」発言を、母上は少し咎めるが、笑顔で褒め千切っていた。
何だかんだで母上も、ルークを溺愛しているものだから、可愛くて仕方ないのだろう。
「……アッシュ、今日はなんかカッケェな!」
「え、そ…そうか?ありがとう」
ふと目があったルークに、いきなり真顔で褒められて、驚いてしまった。
「いつものアッシュと、全然違って見える〜」
キョロキョロと、俺の全身を見ながら、ルークなりに俺を褒める。
ルークの言葉に礼を言いながらも
(…いつも…お前は、俺をどう見ているんだ…?)
と、心の中で、激しく突っ込んでみた。
式は滞りなく順調に取り行われた。
凛としたローレンとナタリアの姿は、俺から見ても格好いいし綺麗だった。
誓いの言葉を述べ、リングを交換し、誓いの口付けを交わす2人の姿に、隣にいるルークをチラリと横目で見ると、照れくさそうに見ていた。
(……可愛いな…)
俺にとって、ルークと言う存在は、可愛いの言葉しか出ないらしい…。
だから俺は、厳かな場所なのに自然に顔が緩んでいた。
御披露目会の前に、ナタリアは自分が持っていたブーケをルークに手渡したらしい。
訳もわからずルークはそれを受け取り、綺麗な花だと言って見つめていたと言う。
ブーケを手にして俺に向かって歩いて来るルークの姿に、一瞬「あっ」と叫びそうな声を必死で飲み込んだ。
「貰っちまった。キレーだな。
なあ、アッシュ。この花ってなんて言うんだ?」
俺に花の名を訊くなよ、と答えながら、少し頭を掻いた。
「…それにしてもルル。お前ナタリアから意味をわかってブーケを貰ったのか?」
「??…なんか、意味あんの??」
…案の定、とにかく手渡されたものだから貰ったとさらっと答えるルークに、俺は苦笑いしながら軽く説明をする。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?」
婚儀の会場に、ルークの見事な大声が響き渡った。
出席者はもちろん、本日の主役の2人も、声の主に視線を送っていた。
「…だ…だだ…だってよぅ…、俺が次ケッコンするとか、んなの知んねーし、そんなつもりじゃ…」
「いや、花嫁のブーケを受け取ったからって、絶対に結婚するとは限らないが……。
うん、いい機会だ。俺達も結婚しようかルル?」
「……アッシュとケッコン……」
その瞬間、何故かルークが沸騰したように真っ赤になっていた。
「ルル?…おい、ルル?ルーク?ルークっ!?」
小さな姫君は、俺にしがみついて、何故か号泣し始めた。
「…お前たち、婚儀の当人たち以上に目立つ行動は慎みなさい…」
父上が、耐え切れず俺達に忠告をしに来られたのは、言うまでもなかった。
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