送り狼(ジャファアリ) | ナノ


送り狼

アリババくん!女性らしい凛とした高い声で名前を呼ばれ、アリババはそちらを見た。


「ピスティさん」

「やっほー、この後予定とかあるかな?」

「?、いえ…ないです」

「そっかそっか」


ニコニコと笑うピスティに、少し困惑しながらもアリババもヘラリと笑う。


「じゃあ、この間のお礼、してもらおうかな?」

「……え?」


キラリと光った目元。

どこか企みを含んだ笑みに、アリババはたじろぐ。そんなアリババをバシバシと叩きながら


「私この間、君に¨チョコレート¨あげたでしょ?まさか、タダで終わらせる訳ないでしょ〜」

「ア、アハハハ」

「ふふふっ」

「ハハ…」

「ね?アリババくん」

「……はい」

「¨これ¨着て、今日の謝肉祭に出るだけだからさ?」

「!?ちょ、これ…!!」


一体どこから取り出したのか、ヒラリと揺れたそれにアリババは焦る。


「大丈ー夫!ヤムも手伝って可愛くしてくれるからさ」

「いやいやいや!だってそれ、俺が着るようなもんじゃ…」

「お・れ・い!」

「………」


ピスティから先日貰った¨チョコレート¨は珍しいお菓子。滅多に手に入るものではない。
キラキラと瞳を輝かせ、ガッチリとアリババの腕を掴む手は見かけによらず力強かった。


「さ、行こうか?アリババくん!」

「………だ、」


¨誰か助けてー!¨アリババの叫びは虚しく廊下に響き渡った―――




澄み渡った夜空には散りばめられた星々。宴はいつものように盛り上がりを見せ、皆が楽しんでいた。


「ジャーファルさん」

「はい?」


いつにも増してどこか楽しそうに笑みを浮かべるピスティとヤムライハに、ジャーファルは首を傾げた。


「?、どうかしましたか?」

「いつもお疲れ様です!ということで私たちからジャーファルさんにプレゼントでーす、ヤム」

「ええ」


コクリと頷きあう2人。

それから、ヤムライハはかけていた魔法を解く。


「!?え…あ、アリババ…くん?」

「っわあぁあ!」


隠者の水膜により姿を隠されていたアリババ。パッと現れたその姿は、謝肉祭で女性が着る衣装を身にまとっていた。

羞恥で顔を真っ赤にし、叫びながら咄嗟に隠れたのは近くにいたマスルールの後ろ。


「も、もういいでしょう!?ピスティさん!」

「えー?」

「似合ってるから出ておいで、アリババくん」

「邪な顔しながら何言ってるんですか王よ」


酒に酔ったシンドバッドが軽快に笑いながらそう言えば、呆れ顔でヤムライハ。


「………」

「あ、ちょ、動かないで下さい!マスルールさんっ」

「………」


無言で少し、体を横に動かせばアリババがそれを阻止するようにマスルールの背中に縋った。

ジャーファルの表情が、笑顔のままピシリと固まる(ついでにその場の空気も、固まった)


「俺の膝に座るかい?アリバ…」


空気を読み切れなかったシンドバッドは言葉を紡ごうとし、止まる。


「………」


優秀な政務官から、冷ややかな視線が遠慮なく注がれた。


「や、それはちょっと…」

「ハッハッハッ、そうだよなー」


シンドバッドの酔った上での発言だと思ったアリババは、困惑しながらも返す。


「……ふう」

「ジャーファル…さん?」


小さくこぼした溜め息。

マスルールの背中から顔を覗かせ、窺う瞳は心配の色が浮かんでいた。

そんなアリババに、ジャーファルはニッコリと微笑む。


「いえ……今日は私も飲み過ぎたみたいで、少し酔いが…」


嘘だろ!!

とその場にいた全員、内心で盛大にツッコミを入れる。確かにジャーファルも少しは酒を口にしていたが、酔いが回るほどではない。

ジャーファルの言葉をどう受け取ったのか、パッとアリババの顔は輝いた。


「じゃあ俺、ジャーファルさんのこと部屋に運びます!酔ってちゃ心配ですもんね」

「……ああ、そうだね」


頷くシンドバッドは見た。

政務官の口元に浮かんだ笑みを…。
まったく…抜かりない奴だ、と肝を冷やす。


ジャーファルのことも心配だが、アリババはこの場から逃げる口実ができホッとする…が、しかし。

ジャーファルは違う。


「歩くのつらかったら、俺の肩掴んで下さい」

「ふふ、ありがとうございます」


気遣わしげにジャーファルを支えるアリババに、優しく微笑みかける。


「……まさに、送り狼だな」

「そうッスね」


すっかり酔いの覚めた王の一言に、満場一致で頷いた。あんなに堂々と、送り狼になる奴なんてジャーファルくらいじゃないだろうか…。



(ご馳走様でした、アリババくん)
(…っ、お粗末様でした!)


夜の踊り子

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