・現パロ
¨これからお前んとこ行くから¨
視界の端で点滅したケータイに気付き、届いたメールを読んだのとインターホンが鳴ったのは同時だった。
「……ここもかよ」
「…は?つーか、いきなり来てなんだその幻滅した顔!」
「うるせー、とりあえずしばらく邪魔するぞ」
「あ、おい!」
1人暮らしをしているアリババのアパートへ、突然訪問してきたのは幼なじみのカシム(一応、連絡は入れたが)
寒い寒い、と鼻の頭を赤くしながら遠慮なく上がる幼なじみに、アリババは呆れる。
「なんなんだよ急に」
「家中甘ったるい匂いで、避難」
まあ、ここも甘い匂いがするけど…と皮肉混じりの言葉と、炬燵の上にあるマグカップをチラリと見る。
「チョコ貰えねーからって自分で作るか?普通」
「う、うるさい!チョコだけど…ホットチョコレート!飲むのだからいいんだよ」
「なんだその理屈」
挨拶代わりのからかいの言葉。
ムキになって反論するアリババに、カシムは喉の奥で笑った。炬燵にぬくぬくと入りながら、マリアムので我慢しろ、と付け足す。
「いま作ってんだ?」
「ああ、それも大量に」
何が楽しいんだか…と呆れた風に言いながらも、その表情は優しい。
アリババは、カシムのこの表情が好きだった。
口では何だかんだ言いながら、兄として色々心配もしているのだ、と。
「何にやついてんだよ」
「え?」
「むかつくからその顔やめろ」
「い!?いひゃい、いひゃい」
先ほどまで自分が座っていた場所に戻れば、炬燵の角を挟んで左に座ったカシムの両手がアリババの両頬を引っ張った。
「おー、よく伸びる」
「うるひゃい」
「クッ…間抜け面」
離せと言わんばかりに掴む手を叩けば、あっさり離れるそれ。
引っ張られた両頬は、うっすら赤くなっていた。
「……サディストめ」
「あ?なんか言ったか?」
「言ってねーよ!」
わずかに頬を膨らませ、マグカップを手にするアリババに、カシムは笑う。¨からかいがいのある奴だ¨と思いながら。
「あ、カシムも飲むか?」
「……いらねーよ」
「えー?」
「今の流れで、それ聞いてくるか?」
ポケットから煙草を取り出せば、スッと灰皿が目の前に置かれた。何気ない、アリババの気遣い。
美味いのになぁ…なんて呟いているあたり、本人は無意識なのだろう。
「体温まるぞ」
「そんなに飲ませたいのかお前は」
甘いのは勘弁、といった風にげんなりした表情をすれば、唇を尖らせ押し黙る。
ガキみたいな奴め…と言葉にはせず、燻らせた煙草の煙を吐き出す。
グイッ…
「?、なんだ、よ…?」
右側から、服の裾を掴まれ引っ張られた。煙草を指に挟みながらアリババの方へ顔を向ければ、重なったのは唇。
それから……
甘ったるい程の、トロリとしたチョコレートが口内に広がった。
「っ、あ、甘いのも悪くねーだろ?」
「……自分で仕掛けときながら、顔赤くしてんなよ」
「う…」
チョコで濡れた唇を舌で一舐め。
アリババが手にしていたマグカップを奪い、自分の口にそれを流し込んで、今度はカシムから仕掛けた。
「!?」
勢いで押し倒して、深く口付ければ苦しそうに眉を寄せる。
「ふ…っ、ぁ…んんっ」
流し込まれるチョコの甘さと、わずかに冷たいカシムの唇に浮かされる。
「……バレンタインだしな…チョコでも使ってみるか?」
「ア、アホか!!お断りだっ」
「誘ってきたのはアリババだろ」
肘を折って、鼻先が触れそうな距離で欲の孕んだ瞳とかち合った。
さ迷う視線に、カシムはアリババの首筋を撫でる。
「カ…カシム…」
困惑した表情。
まったく…こいつは無意識に相手を誘ってくるからタチが悪いんだよな、アリババよぉ。
(たまには甘いのも、悪かねーな)
(生き生きしやがってチクショー!)
Hot Chocolate