私は海の上に立っていた。

足元はすごく不安定で、歩くとゆらゆら揺れてまっすぐ歩けない。
だんだん進むといつの間にか海は赤くなっていた。一見、それは血のようだが、そうは思えなかった。血にしてはどこか優しい色をしている。

そこで私は初めてその海に触れたいと思った。少し屈んで手で触れてみると、とても暖かくて心地よい。
そのままずっと、触れていたい。

なのに、だんだんと騒がしくなってきた。
これは波の音じゃない…声?








「ほう、Gもようやく手を出すようになったか」
「んー、というより寝てるからでしょうね。やっぱりヘタレはヘタレのままなんですよ」
「っるせーな、後でプリーモもデイモンもテメーら一発ぶん殴るからな!」
「……G…ぃ?」
「あ?あぁ…悪ぃ、起こしちまったか」

ボンヤリと視界に入ったのは鮮やかな赤い海…じゃなくて赤い髪とGの顔。
聞こえてくる声からして、どうやら談話室にいるらしい。
寝ていた体を起こそうとしたけど、何故か体は再びソファへと沈んだ。

「おい、まだ本調子じゃねーんだ。無理すんな」
「私、どうか…したの?」
「そこの馬鹿2人に度数の高ぇワイン飲まされたんだよ」
「これと一緒にするな」
「これと一緒にしないでください」
「どっちにしろ事実だろーが!」
「…だから…あんな夢見たんだ…」

言われてみると、確かに頭の奥が少し痛い。
そんな頭を活動させ夢を思い出すと、あの海はワインを示していたのか。
けれどなぜ暖かかったのだろう、別にホットワインを飲んだ記憶はない。…多分、だけど。

Gは2人に水を持ってくるよう部屋から追い出すと、心配そうな顔を私に向けた。

「…で、気分は?」
「あ、うん、そんなに悪くないよ」
「そうか…あー…」

なんだか歯切れの悪い話し方。
いつもズバズバとものを言う彼にしては珍しい。

「なに?」
「いや…まあ、お前がいいならいいんだけどよ」
「だから何よー」

そんな風に濁されると気になる。
私は起き上がるとソファへと座り、彼と並んだ。

「…あれ?」

よく見れば彼と私の間で、手が繋がれている。
頭に残っている夢の断片を思い出し、顔に熱が一気にたまった。

「もしかして……あっ、ご、ごめん!」
「なんで謝るんだ」
「いや、だって、勝手に…ていうか、手…」

慌てて離そうとした手は、離れることなく彼の手に捕まったまま。なんだか恥ずかしくてそっぽを向いた。

「…嫌なら離す」
「えっ、別に、嫌ではないよ」
「そうか」
「……」
「……」

そのまま、話すタイミングと離すタイミングを失った。
嫌ではないんだけど、なんだか気まずい気がしてどうしようかと迷った。

ふと、顔を上げた。そこには大きな鏡が置いてある。
鏡には顔が赤い私と、少し驚いた顔のGがいて、鏡越しの視線はばっちり合った。

「あ」
「あ」
「…G…」
「え、あ、いや」
「み…見てたの…?」
「違ぇ!たまたま横見たら鏡があって…!」
「あーもうっ!恥ずかしい!」

み、み、見られちゃった!
きっと私の顔は、眉間にシワを寄せたり目玉がキョロキョロ動いてたり…顔が赤かったり。そんな百面相をしてたかもしれない…!

私はすぐさまその部屋からかけ出した。


その時、気づいた。
さっきまで繋がっていた左手が、すごく、熱かった。



こぼれた
こぼれたキャンディー




「…さっき彼女が慌てて部屋から飛び出してきたんだが」
「いくらなんでもそこまで手を出すとは」
「だから誤解だっ!」


(甘さはどこかへ落ちていった)


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