死ぬまで一緒

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「恋って何だと思う?」

 唐突な言葉に、観月は目を丸くした。
 洋服を畳んでいた手を止め、なまえを仰ぎ見る。

「どうなさったのですか、突然」
「ラブレター貰ったから」
「……ラブレター、ですか」

 意外な答えに、目を細める。
観月はなまえの世話係である。観月の実家は代々なまえの家に仕えており、平成の世になった今でも変わらない。観月は五歳の時に、四歳だったなまえの世話係に任命された。それ以来ずっと、なまえの為だけに生きている。
 そのなまえに、恋文が渡された。世話係として放っておくことは出来ない。

「渡してきた相手と、会うつもりですか?」
「まさか。無視するに決まってるでしょ」

 淡々と答え、欠伸をした。渡してきた相手に全く関心を持っていないらしい。
 嬉しいような悲しいような。親離れしてほしくないけど、将来を考えるとしてほしい親のような心境だ。 息を吐き、止めていた動作を再開する。

「それでよくもまあ、先程の質問が出て来ましたね」
「……んー、恋したことなかったに気付いたから。はじめはある?」
「貴方の世話で精一杯です」
「そう。はじめも知らないんだ」

 したいかと聞かれ、少し悩んだ後否と答える。

「この身滅びるまで、貴方の世話をすると誓っています。恋などする暇はありませんよ」

 その原動力は、なまえに対する突き抜けた忠誠心。そして、受け継いできた観月家の血。
 傍から見れば重た過ぎるそれに、なまえは笑った。まるで、聞きたい答えを貰えた子供のように。

「素敵な答えだね。それでこそ、私の世話係だ」
「お褒め頂き光栄です」
「でも、少し間違いがある」

 寝転んでいたソファーからなまえは起き上がった。観月の前で膝をつき、顎を掴み上を向かせる。

「この身が滅びるまで? この私が、お前が先に死ぬことを許すとでも思っているのかい?」

 近付いてきた目に映るのは、一種の狂気。なまえが観月に向ける、依存にも似た激しい独占欲。

「お前が死ぬのは、私の後だ。私の死後の面倒を全て見終えてから、私の後を追ってこい」

 その激しい想いに、観月は口角を上げる。
 以前テニス部の部長に、なまえを溺愛しているなと言われたことがあった。テニス部の部員には、なまえに依存していると言われた。
 それに、思わず嘲笑が出そうになった。何を見ているのか、と。
 依存しているのは、なまえの方だ。愛しているのも、なまえの方だ。自分が向けるものよりも、激しく重く大きいものを、なまえは向けて来る。

「それを、貴方が望むのでしたら」

 観月はそれを、余すことなく受け止める。なまえが望むことを叶えることを、己の存在意義だとしているが故に。
 なまえは猫のように目を細め、満足げに頷いた。手を離し、またソファーに戻る。

「なまえお嬢様」
「何?」
「お嬢様は恋をしたいのですか?」

 問い掛けたそれに、なまえは考えるそぶりを見せた。
 観月を横目で見、もししたいと言ったらどうする、と逆に問い掛ける。

「お嬢様の望む通りにしましょう。全てはお嬢様の意のままに」
「邪魔しろと言えば?」
「全力で邪魔致します」
「応援しろと言えば?」
「全力で応援致します」
「……なら、いいや」

 観月の答えに満足したのか、満面の笑みを浮かべた。問い掛けに答えようとはせず、機嫌よさ気に鼻歌を歌い出す。

「……仕方ありませんね」

 自由気ままな主人に思わず苦笑を浮かべる。だが向ける目は、どこまでも優しい。
 なまえが恋をしようがしまいが、己のすることは変わらない。己はなまえの為に、人生を費やすのだから。

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