サディスティックなその笑みに

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「はあ、はあ、なまえこれ」

「遅いよ、仁王」

「でも、」

「なに?」

「…なんでもなか」



俺が持ってきた購買のパンを何気ない顔で食べはじめるなまえ。あれなかなか手に入らないからブン太に頼み込んで譲ってもらったのに。そのせいでまた一週間ブン太のパシリじゃ。

睨むようにじっとなまえを見てると「なに?早く教室戻れば?」なんてのうのうと言ってくる。

くそ、なんで俺がこんなこと。



「あ、仁王ー」

「…なんじゃ」

「のど乾いた、ジュース買ってきてよ」



元はといえば一週間前。
ゲームをしよう、なんてなまえが問い掛けてきたときから。負けたら言うことを聞く。そんな言葉に騙されてまんまとゲームにのったんが間違いじゃった。

今思えばなまえが勝算がないゲームなんかするわけないのに。



「え、でも休み時間もう終って」

「私の言うこと聞けないの?」

「…買ってくる」



ああ、なんてなまえは愉快そうに笑うんじゃ。



「詐欺師の名が泣くね、仁王」

「…」

「ふふ、そんなに睨まないでよ」

「…うるさい」



こんなはずじゃなかった。縛り付けて、閉じ込めて、自分のものにするつもりだった。まさか自分がこっちの立場に立つなんて夢にも思ってなくて。憎らしい。腹立たしい。



「こっち来て」

「…喉が乾いたんじゃないんか」

「ああ、そんなのもうどうでもいいよ」

「…」

「早く来なよ」



それでいて、ゾクゾクする。

逃げだそうと思えば逃げ出せる。力だって俺の方が圧倒的に強い。拒もうと思えばいつでも拒めた。

憎らしい?ああ、憎らしい。ぶちのめしたくなるくらい。腹立たしい?もちろん、腹立たしい。押し倒してしまいたいほど。それでも、



ちゅ



「…っ」

「かわいい、仁王」

「なにしてっ」

「従順な仁王が、私は好きだよ」

「……」



きっと俺は堕ちてしまったんじゃ。こいつの罠に。この快感に。



「ねえ、仁王は?」

「…俺も、好きぜよ」





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