- ナノ -




『んでー、トリップするにあたって、流石に着の身着のまま放り出すなんてできないから、3つ、君の願いを叶えてあげるよ』
「願い事?!」

その時、私ミュウの登場で頭の淵に追いやられていた思いが、むくむくと膨れ上がる。
そう、両親のことだ。

『あ、戸籍とトレーナーカード、最低限の旅の荷物と容姿変更は願わずともサービスしてあげる…って、ん?』

ミュウが、いきなり下を向いて固まった私の異変に気付く。
私はすぐ顔を上げて、まっすぐミュウを見た。
「願い事って、なんでも叶えてくれるの?」
『うん。そんなめちゃくちゃな願いじゃなければ、なんでも。』
ミュウが頷いたのを見届け、私は息を吸い込んで、吐いた。そして言った。
「私の家族も、殺されたのよ」
『そういや、君のお父さんとお母さんも、強盗に襲われたんだねえ』
「だから、その3つの願い叶える力、全部使ってでもいいから、父さんと母さんを助けて欲しいの。私を着の身着のまま放り出すなら、それでいいから…」
そう。私の何より大切な人たち。いつだって味方でいてくれた両親。なんであんな善良な人たちが理不尽に死ななければならないのか。そんなの許されるはずがない。もし両親が助かり、元気にやっていくならば、例え二度と会えないとしても、私は頑張れる。
そんな思いで、ミュウを見据えると、ミュウは目をぱちくりしていた。が、
『ふっ…あはははははははっ!』
大笑いし始めた。その態度にカチンと来て彼(?)を睨むと、ミュウはようやく笑うのをやめた。
『はあ、はあ…いやーごめんごめん、そんな願い初めてでさ、珍しいからつい面白がっちゃった。君は家族思いだねえ。大体のトリッパーは、家族を捨てたがるのに』
他のトリッパーのことなど知らない。私にとっては全てにおいて優先することだ。
『オーケイ!君のご両親も、向こうで生き返らすことはできないから、君のようにこっちに連れてきてあげる。それで願い1つ消化ってことにしとくよ』
そう言われた瞬間、体から力が抜けた。
両親と一緒にいられる喜びに、心が温かくなった。良かった…。
「ありがとう、ミュウ。サービスいいのね」
『それほどでも。さあ、あと2つどうする?』
うーん。1番重要な願いが叶うとなると、後が思いつかない。
しばらく考えて、ようやく私は答えを出した。
「じゃあ、旅の荷物に上乗せして、安定した生活を送れる環境を頂戴。」
父さんと母さんも来るし、3人で旅する訳にもいかないから、家とか仕事とかが欲しい。ミュウも、それをわかってくれたらしい。
『要するに、家とか家財道具とか仕事ってことだね?いいよ』
良し。なら野垂れ死ぬのは回避できた。しかし、あと1つが思い浮かばない。
「ミュウ。あと1つ思い浮かばないから、なにかポケモン世界で役に立ちそうな特典を適当にそっちでつけてもらうこと、できるかしら。」
『いいよー!じゃあなんかつけといてあげる!』
ミュウがサービスいい奴で良かった。これで向こうでも頑張れそうだ。
『あ、容姿変更はどうする?』
「このままでいいわ。」
そう答えると、ミュウは鷹揚に頷く。そして、彼の体が白く光り始めた。
『さあ、では君を向こうに送るからね!覚悟はいい?』
「大丈夫よ。」

頷いた瞬間、光が弾けて、何もわからなくなった。



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