- ナノ -




「何やってるの!!」
クノエの林道に、私の怒鳴り声が響く。目の前には、ボロボロに傷ついたラティオスとラティアス。そして、それを取り囲む6体のポケモンと派手な女。
クノエシティまで母さんからお使いを頼まれ、せっかくだから歩いて行ったら、この光景が目に入ったのである。
女が口を開く。
「何って、このラティオスとラティアスをゲットしようとしてるだけだけど?こいつら、私の手持ちになるのを拒否したから、思い知らせてあげてるのよ」
「思い知らせるって、何を?」
怒りに声が震える。
「私はね、セレビィに選ばれて別の世界から来た特別な存在なの!この世界は私のもの!そんな私に逆らうのがどんなことか思い知らせてあげてるのよ!」
「っふざけんな!」
やっぱりこの女、トリッパーだった!いや、トリッパーじゃなくてもこんな行為許される筈がない。
「これじゃ密猟と虐待じゃない!思い知らせるって何よ!この世界はあんたのものじゃない!」
話が通じない相手だとわかっているのに、言葉がつらつら出てくる。
女は顔を顰めた。
「何よ、あんたも私に逆らう気?…いいわ、あんたにも思い知らせてあげる!」
そうして、女はポケモンたちに、私に攻撃するように指示を出す。しかし、
『カナに触れるな!』
相手のポケモンたちが飛びかかってくる前に、私の手持ちたちがボールから飛び出して一撃で伸していく。
「な、なんでよ…。なんで私が負けるのよ…!」
ポケモンが全員戦闘不能になり、女は震えながらへたり込んだ。私は、フォルテと共に女に近づく。
「ひっ…!」
さっきまでの威勢はどこへやら、女は私を怯えた目で見る。
「フォルテ、ラスターカノン」
「いやっ、助けーーー」
ラスターカノンで起きた土煙が晴れた頃には、女も女のポケモンもいなくなっていた。恐らく女のポケモンはゲームデータの引き継ぎだったのだろう。ミュウにトリッパー削除の許可はもらっているので、罪悪感など感じない。
私はラティオスとラティアスに向き直り、ハッとした。
二匹は「まだ」ボロボロだったのだ。
トリッパーは、この世界から消えると、「存在したという痕跡」すら消える。つまり、関わった人の記憶、しでかしたこと、全てがリセットされる筈なのだ。だから、あの女が二匹をボロボロにしたこともリセットされる筈なのに、二匹はボロボロのままなのだ。

どうして?

考えこむ私に、八千代さんが言った。
「カナ、考えるのは後だよ!まずはこいつらを救わななきゃいけない!」
その言葉に私はハッとする。慌てて二匹に駆け寄り、バッグから傷薬を取り出し、二匹にかけていく。そして、バッグからモンスターボールを出す。気乗りしないが、流石にこの二匹を運ぶのはこうしないと無理だ。
「…ごめんね」
私は二匹に順番にボールを当てた。ボールは揺れて、止まる。ボールをバッグに入れて、八千代さん以外の手持ちもボールに戻す。
「八千代さん、お願い」
「はいよー!」
私は八千代さんの背中にまたがり、ミアレシティのポケセンを目指すのだった。



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