- ナノ -




「んで、今日はどんな用件で来たんだ?」

握手を終えると、ギンさんが口を開いた。
『ああ、それなんだけどね、カナ、時計を出してくれるかい?』
ミュウに促されて、私は懐中時計をギンさんに渡す。
「うわ、立派な時計だけど傷がついてるじゃねえか。こりゃひでぇ」
「直りませんか?」
「蓋を取り替えないといけないから、しばらくかかるな」
やっぱり、そう簡単には直らないか。私はため息をつく。すると、
『ちょっと待ってよ!ボクにいい案があるって言ってるでしょ!ギン、ちょっとこっちに!』
ミュウが声を上げた。そして、ギンさんを店の隅に引っ張っていく。なんだなんだ。
「なんだよ、ミュウ」
ギンさんも声を上げる。ミュウは気にせず、ギンさんの耳元に顔を近づけ、何かを囁きかけた。すると、ギンさんはニヤリと悪戯っ子のように笑った。だからなんなんだ。置いてきぼりにするなよ。
そんなことを思っていると、ギンさんがつかつかと私に近寄ってきた。
「えっと、カナさん、だっけ?この懐中時計、俺に少し貸してくれないか?」
「え?あ、はい、いいですよ。もともと直してもらうつもりで来たんで。どれくらい時間かかります?」
「いや、そんなに時間はかからない。2時間程頂ければ」
「2時間?」
さっきしばらくかかるって言ったじゃないか。どういうことだろう。
「何するつもりですか?」
「まあ、2時間貸してくれればわかるよ。あと、ミュウも借りるぜ。」
『ちょっとやることがあるからね!』
ああ、ミュウの力を借りて蓋を作るのね。ミュウなら全部の技使えるし。短時間でも納得。
『まあ、カナは2時間、コボクタウンを散策しててよ!』
「わかったわ」
こうして私は、ギンさんに時計を託し、店を出たのだった。



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