- ナノ -




『さあ、着いたよ!』


ミュウに連れられて辿り着いたのは、ミアレシティの隣町、コボクタウンの一角にある、小さく古めかしい店の前だった。看板には、「étoile」と書いてある。
『入ろうか』
私は、ステルスで姿を消したミュウと連れ立って店に入った。

店内に入って、辺りを見回す。丁度店内には私とミュウ以外の客はいない。ショーケースや棚に、様々な種類のアクセサリーが並んでいた。ここはアクセサリー屋さんのようだ。
ここでなら、懐中時計が直せるのだろうか。
そんなことを考えていると、ミュウが突然ステルスを解いて姿を現した。
「ちょっと!」
『ギン、いるかーい?』
慌てる私を尻目に、ミュウは店の奥に向かって呼びかけた。すると、「はいよ」という低い声と共に、カウンターにのそりと人が現れた。現れたのは、私より少し年上くらいの少年だった。
しかし、その少年を見て、私は驚いた。
(うわ、イケメン…!)
最初に目に映ったのは、銀色。
きらきらと輝く美しい銀髪だった。それだけでも人目を惹くだろうに、彼の切れ長の目はこれまた鮮やかな赤色で、吸い込まれそうだ。肌も色白で、どっからどうみてもイケメンである。え?お前はイケメンにときめくキャラじゃないだろうって?失礼な。そんなにミーハーでないにしろ、私だって女だ。かっこいい人を見ればドキッとする。
「よう、ミュウか」
「久しぶり、ギン」
そんなイケメンは、カウンターから出てくると、ミュウに挨拶する。どうやら知り合いらしい。ミュウの知り合いということは、彼もトリッパーか?
そんな風に考えていると、ギンと呼ばれたイケメンが私に視線を向けた。

そして、思いっきり顔を顰めた。
その顔のまま、ギンさんは口を開く。
「おいミュウ、逆ハー狙いのトリッパーなんか連れてきて、どういうつもりだ」
「誰が逆ハー狙いよ」
思わず声に出た。逆ハー狙いと勘違いされて絡まれることは多々あるから気にしないが、顔を見るなり嫌そうな顔をされたらさすがに傷つくし、ムカつく。
「人は見た目が9割なんて言うけど、見た目だけで初対面の人間の人格を判断するなんて、あんたこそ逆ハー狙い並みにお粗末な人格じゃない」
「じゃあそのオッドアイはなんなんだよ」
「生まれつきよ」
そして、睨み合い。イケメンだと思ったらとんだ失礼野郎だった。
すると、慌ててミュウが割って入った。
『二人とも落ち着いて!ギン、カナ…彼女の言っていることは本当だよ。彼女はハーフで、オッドアイも生まれつきなんだ。』
ミュウの言葉を聞いて、ギンさんは驚いたような顔をした。
「はあ?!嘘だろ?」
『ボクが今まで嘘をついたことがあったかい?ついでに、彼女は逆ハー狙いでもない』
グッジョブ、ミュウ。私はドヤ顔でギンさんを見つめる。ギンさんはバツの悪そうな顔をして、視線を私の足元あたりに移すと、
「…悪かった」
と謝った。ああ、ちゃんと謝れる人なんだ。なら、私もちゃんとした対応をしなきゃ。
「いえ、わかってくださればいいんです。逆ハー狙いと勘違いされることはよくありますから。こちらこそすみません。ところで、あなたもトリッパーなんですか?」
こちらも謝って、気になったことを聞いてみた。
「ああ、自己紹介してなかったな。俺はギン。あんたの考え通り、トリッパーさ。今はこの店で彫金師をやってる。」
「私はカナ。私もトリッパーです。よろしくお願いします。」
そして、握手。まあ、悪い人ではないらしい。

これが、私と、彫金師、ギンの出会いだった。




※「étoile」→エトワール、意味はフランス語で、「星」



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