- ナノ -




ここは、カフェ・ソレイユ。

大女優カルネさんも利用すると噂のこの店は、今日も酷く混み合っていた。

私は、今日ここである人と待ち合わせしていた。
混み合う店内を見回すと、目当ての人はすぐに見つかった。私はその人に駆け寄る。
見知ったボブショートの黒髪が揺れているのが、はっきり見えた。

「マサコちゃん!」
「あ、カナちゃん!」

そう、彼女は私の友人のマサコちゃんである。
しかし、友人と言っても、「この世界に来る前からの」友人なのだが。




「直接会うのはいつぶりかしら。本当に久しぶりね。」
「地方が違うと、なかなか会えないものね。今日は会えて嬉しいよ。」
マサコちゃんは、にこにこした顔でいう。
いつ見てもその笑顔は可憐だ。日本人離れした容姿ではないが、可愛らしいから羨ましい。
この世界に来る前の彼女は、ここまで美しい容姿では無かったのだが、割と壮絶な経緯を経て、この世界にトリップし、可憐な容姿を手に入れた。まあ、それはまたの機会に話すとする。
現在彼女は、ホウエン地方のカイナシティに住んでいて、今日はカロスに観光がてら、私に会いに来てくれたのだ。
「カロスにはどのくらい滞在するの?」
「一週間くらいかな。明日にはミアレシティを出るわ。」
「えー、残念」
久しぶりに会ったからか、たわいのない会話すら特別に思えて、会話はどんどん弾んでいく。
この風景を見れば、私もマサコちゃんも普通の女の子に見えるだろう。しかし、マサコちゃんにはもう一つ秘密がある。
「そういえば、こないだ、ポラリス…ジラーチを見られちゃったの」
マサコちゃんが小声で振った話題に、私は目を見開いた。
ポラリス。それは、彼女の手持ちのジラーチのニックネームである。このポラリス、なぜかいつも起きているのだが、マサコちゃんの手持ちになぜ珍しいはずのジラーチがいるかという理由も含めて、私はまだ何も聞かされていない。
それはさておき、ジラーチを見られたらしい。これは、面倒事のフラグではないだろうか。
「で、目撃者が運悪く逆ハー狙いのトリッパーだったの。私たちを見るなり、『ジラーチをよこせ』って言ってきたよ」
面倒事だった。マサコちゃんもまた、トリッパーによく絡まれるのだ。しかし、マサコちゃんは、絡まれるだけで終わらない。
「で、どうしたの?」
「無視したらポケモン繰り出して攻撃しかけてきたから、ポラリスで応戦してパーティ全滅させたら発狂したよ。だから今度こそ放置」
そう。アホなトリッパーには、こうやって鮮やかに対処する。要するに叩き潰す。そして、それをにこにこ穏やか笑みで語れる。そんな強かな根性の持ち主なのだ。
マサコちゃんの可憐な容姿と笑顔、そして性格のギャップは、私も気に入っている。というか、ただのか弱い女の子ならここまで仲良くならなかった。
「そういや、私のこともミュウが母さんに見られちゃってさあ…」
だって、私だって性格良くないもの。



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