- ナノ -




私には、人と接する上で大切にしていることがある。
それは、「誠実に接する」ということ。
流石に危害を加えられそうになれば徹底的に戦うが、それ以外の人間には誠実さを全面に押し出した付き合い方をする。
これは、虐げられ、何度も人間嫌いになりかけた私への、両親への教えだ。

ーーー優しく誠実に人に接していれば、いつか他人も応えてくれる。

その教えを胸に、私は生きていた。綺麗事だと馬鹿にする人もいるかもしれない。
しかし、現に私はその方法で味方を増やしてきたのだ。
容姿が派手で警戒されても、優しく誠実な態度を身せれば大抵の人は見直してくれるものだ。
それに、誠実さとは、時に自分の正当性を示し、「盾」にもなりうるのだ。
例えばそう、今みたいに…。




ミアレシティのとある広場。
ギャラリーがちらほら集まっているその中心には、堂々と立つムーランドの武(たける)と私、そして、へたりこみながらも私たちを睨みつける男トレーナー。
何故こうなったのか?理由は簡単。バトルを挑まれたから武だけでコテンパンに伸したのだ。
ちなみに、私に最強補正はない。この世界に溶け込むため、必死こいてバトルの腕を上げただけだ。
要するに、負けたのはこの男トレーナーの努力不足である。なのに私たちを睨むのはお門違いではないだろうか。
「この…!''化け物''の癖に…ッ!」
化け物。何度言われても慣れないその言葉。金髪が珍しくないこの世界でも、オッドアイが気味悪がられることが、向こうより少ないものの、たまにある。
そういう人は、私を化け物と呼ぶ。
武が唸って飛びかかろうとしたのを手で制する。その時。

「…さいてー」

広場に一つの声が響く。発したのは、ミアレシティに住む顔見知りのミニスカートの子だった。
「カナちゃんは努力してるから強いのに、自分の努力が足りなくて負けたのに、カナちゃんを化け物呼ばわりとかないわー」
ミニスカートの子が吐き捨てる。すると、周りが次第に同意し始めた。
「そうだよね」
「酷い」
「あのムーランドよく育てられてるしな」
そんなひそひそ声は結束を増していき、最後には、男トレーナーへのブーイングとなった。
「最低!」
「恥を知れ!」
「ひとでなし!」
そんな罵声を受けた男トレーナーは最初は狼狽えていたが、最後には顔を真っ赤にして逃げていったのだった。

「大丈夫だった?」
男トレーナーが逃げていった後、ミニスカートの子が駆け寄ってきてくれた。
「平気よ、あれくらい慣れてるわ。それより、ありがとうね、ミサトちゃん」
ここで下手な演技などせず、正直に気持ちを話す。これが誠実さだ。ミサトちゃんは、私の誠実さを認めてくれた一人である。
「しかし、カナちゃん相変わらず強いねー」
「強いのは武よ。ね、武!」
『はっ。ありがたきお言葉です!』
周りの人も私と武に拍手をくれる。ありがたい。


この世界でも、味方は着々と増えている。



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