- ナノ -




復讐少女とパートナー

──背中が痛くて、目が覚めた。

目を開けると、枝で空を覆い隠す木々が現れる。身体を起こして見回せば、やはり、森の中だった。
「もっと人気のあるところに飛ばせばいいものを……」
あたしをトリップさせた空間の神に悪態を吐いて立ち上がる。身につけているものは、血だらけの服から、動きやすくてあたし好みの服に変わっていた。
足元を見ると、シンプルな肩掛け鞄が落ちていた。パルキアが言っていた、「最低限の旅の荷物」ってこれかな。
鞄の中身を漁ると、財布とトレーナーカード、モンスターボール一個、ポケモンの傷薬に野営の道具、食料や着替え、そして謎の封筒などがどんどん出てくる。明らかに肩掛け鞄一つに入りきらない量の荷物だが、ゲームでは自転車さえバッグに入れていたので、ツッコミは野暮だろう。
モンスターボールと謎の封筒を残して、荷物をバッグにしまう。そして肩にかけて、手に持ったボールを見た。
多分この中に、あたしが願ったパートナーポケモンがいる。
どんな子かまでは指定できなかったが、あたしに力を貸してくれるならなんだっていい。
あたしは深呼吸して、ボールを投げた。
ぽん、と音がして、ボールから光が飛び出し、ポケモンの形を作っていく。そして、現れたのは……。
『やっと出してくれたね! 椿!』
「……アチャモ?」
オレンジ色の可愛らしいヒヨコの様なポケモン、アチャモだった。
「……えーと、あんたが私のパートナー、ってことでいいの?」
『そうだよ! パルキアに、椿に力を貸してあげてって言われて、ゲームの中から出してもらったんだ。椿は僕を孵してくれた「おや」だから、なんで協力するよ!』
アチャモは元気に答えてくれる。あたしの頭の中に、元いた世界での出来事が浮かんだ。
あたしは、元の世界で死ぬちょっと前から、アチャモの厳選をしていた。Switchで出た最新作にまだアチャモは連れて行けないが、ただ強いアチャモが欲しくて、わざわざ3DSのソフトを引っ張り出してプレイしていたっけ。
そして、あの女に刺されるきっかけとなった外出の直前に、理想個体が生まれたのだ。ちなみに、まだニックネームはつけていなかった。
「あんた……『加速』の6Vだったりする?」
『うん、僕、君がアローラ地方で孵してくれた『加速』のアチャモだよ!』
「そっか……そっかあ……」
自分の部屋で、アチャモの個体値をジャッジしてガッツポーズした記憶が蘇る。
あのままゲームをプレイしていたら。外出しなかったら。
そんな後悔が浮かんで、視界が滲む。
あたしは涙を拭って、アチャモを見た。
「アチャモ……あたしね、殺されたの。殺されて、この世界に来たの。だから、あたしを殺した奴に復讐したい……こんなあたしに、着いてきてくれる?」
見たところ、このアチャモは優しい子だ。復讐に使われるのを、嫌がるかもしれない。
嫌がる子を無理矢理付き合わせるなんて、あの女と一緒だ。だから、アチャモが嫌だと言ったら、ここでお別れだ。
『パルキアから事情は聞いてるよ。僕ね、選ばれたのが自分で良かったって思ってる。僕、椿が大好きだもん。だから、椿の側にいたい。椿のしたいこと、僕で良ければ協力する!』
にこにこしながら、アチャモは答えてくれた。彼は、どこまでも優しく、あたしを愛してくれている。協力すると、言ってくれた。
「ありがとう、アチャモ……!」
たまらなくなって、私は、この世界でできた、初めての味方を抱きしめた。
アチャモは、私に頬擦りして、甘えていた。



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