- ナノ -




愛される少女の日常

『起きなよ、朝だよ』
ハスキーな声で、私は目を覚ました。
目を開けると、目に映るのはこぢんまりとした部屋。シンオウのミオシティからジョウトのアサギシティに向かう大型船の船室だ。
硬めのベッドから身体を起こして横を見ると、パートナーが私を見つめていた。
「おはよう、万里乃」
『おはよう、ミユ』
挨拶をすると、私のパートナー……カメックスの万里乃が、優しい目で挨拶を返してくれた。
『ジョウトに着くのは昼頃だっけか。さっさと朝飯食べようよ』
「そうだね。食堂に行こうか。着替えるから待ってて」
『はいよ』
万里乃は部屋の隅に移動し、私の着替えるスペースを作ってくれた。
メスのポケモンにしては口が悪いけど、ハキハキしていて、面倒見のいい万里乃は、私のパートナーであり、一番の友達だ。

「野坂 鈴美」としての生を終えた私は、パルキアに拾われたことでポケモン世界に転生することになった。
私が転生したのは、ジョウト地方のエンジュシティにある名家だった。「ミユ」という新たな名前をつけられた私は、オムツ替えや授乳などの羞恥プレイを乗り越えてすくすく成長し、前世で死んだ年齢を超えて15歳になった。
最初こそ誰も信用しないと決めていたが、新しい両親や友人知人や皆優しい人で、私は人間不信を克服できた。
人間不信を克服する過程で、万里乃のような手持ちのポケモンが支えになってくれたことは、言うまでもない。
私自身も、この世界の人々にいつの間にか情が湧いてしまい、結局、私は大切な人たちに囲まれて、それなりに楽しい毎日を送っている。

「行こうか、万里乃」
『はいよ』
着替え終わった私は、万里乃を伴って船室を出た。
『ジョウトに着いたら何しようか』
「うーん、久々に家に帰ろうかな」
食堂に向かって廊下を進む。カメックスという種族は速く歩けないため、私も万里乃に合わせてゆっくり歩く。
『……ミユ』
「何?」
『何度も言うけど、歩きにくいなら、アタシを戻していいよ』
私は、一番の友達である万里乃を連れ歩くことが多い。しかし、万里乃に合わせて歩くと、ゆっくりになってしまう。
それでも、万里乃を連れ歩く理由なんて、決まりきっている。
「何度だって言うけど、歩きにくいとか、そんなの関係ないよ。私は、万里乃と一緒にいたいんだから」
私がそう言うと、万里乃は嬉しそうに笑った。
『……他の仲間に怒られそうだよ』
「ふふ、もちろん、私に着いてきてくれる手持ちは皆大好きだよ」
腰に着いたボールを撫でながら、私も笑った。

世界に絶望して死んだ私が辿り着いたのは、新たな幸せを与えてくれる世界だった。
今度こそ、失いたくない。
例え、どんな手を使おうとも……。



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