- ナノ -


ミュウは、にっこりと笑って私に説明を始めた。
『ボクみたいに、強大な力を持っていたり、神様と呼ばれるポケモンはね、君たちの住む世界からボクらの世界に、非日常や異世界に憧れる少年少女たちを連れてきて、彼らがボクらの世界でどうやって生きるのか傍観する遊びにハマってるんだ! だから、事故で死んだ君の魂を連れてきたんだ! 傍観対象としてね!』
……かわいい見た目でろくでもないことを言うミュウに、私はつい眉を顰めた。
「……要するに、私はチェスでいう駒みたいなものだと?」
『身も蓋もない言い方すればそうなるね』
「別に私、異世界への憧れはないですが」
予想以上に冷たい声が出て、自分が驚いた。ただでさえ奴隷扱いだったのに、ゲームのキャラクターにまで駒扱いされるなんてたまったもんじゃない。
ミュウは何がおかしいのか、クスクスと笑って続ける。
『今回は趣向を変えて、特に憧れのない子を連れて来ようと思っただけさ。それに、君にとっても悪くない話だと思うよ? 本来なら死んで黄泉の国に行くはずのところを、新しい人生を歩むチャンスを与えてるんだから。今から元の世界に戻っても、黄泉の国に連れてかれるだけだよ?』
「はぁ……」
黄泉の国がどんなところかもわからないし、新しい人生と言っても、平凡な私が何を為せるというのか。どっちの方が楽かな。
「ミュウ……さん?」
『ミュウでいいよ』
「じゃあ、ミュウ……別に私、得意なことがないどころか何もできないし、あなたが傍観する価値は無いと思うけど……」
私がそういうと、ミュウは私を真っ直ぐに見つめてきた。
『可哀想に。君はろくでもない家族に、価値のない人間だと擦り込まれたんだね』
「えっ……」
青い瞳に見つめられて、私は声を出せなくなる。どうして、ミュウは私の環境を知っているの?
『ふふ、人間の思いや過去を覗くのなんて簡単さ』
私の心を見透かしたように、ミュウが笑う。そして、優しい声でまた話し出した。
『まあボクは、今の君に価値があろうがなかろうがどうでもいいんだ。君がボクらの世界に来てくれるなら、君は何にでもなれる。ゲームの取り決めで、ボクらの世界に連れてくる子には、ギャラとして3つの願い事を叶えてあげるんだ。それをうまく利用すれば、ね?』
青い瞳に映る私が、目を大きく見開いた。

prev next
back