- ナノ -

ポケモンセンターとアブソルの特性


ダイゴさんと共に歩き出してから、1時間ほど経った。天気研究所を横目に見ながら、手すりもない橋を渡る。めちゃくちゃ怖い。ゲームでは普通に渡ってたけどめちゃくちゃ怖い。
どうにか橋を渡り、起伏の激しい道をさらに十分ほど歩くと、赤い屋根の建物が見えた。
「あれがポケモンセンターだよ」
ダイゴさんが言う。すぐにポケモンセンターの前に辿り着いた。
『着いたー! ヒワマキシティ!』
アブソルが声を上げた。私は周りを見渡す。今私たちがいるのは、森の中の空き地。ポケモンセンターとフレンドリィショップが建っている。そして、周りを取り囲む木々には、ツリーハウスが建ち、家々を繋ぐ吊り橋がかけられている。ゲームより規模は大きそうだ。
「素敵な街だなあ……」
思わず呟いた直後、ダイゴさんが私を呼んでいるのが聞こえて、振り向く。
「ポケモンセンターに入ろうか」
ダイゴさんが手招きしているので、私とアブソルは大人しく従った。

建物の中は、清潔感と温かみが混ざり合った、居心地の良さそうな内装だった。何人かのトレーナーがロビーにたむろしていて、ちらちらとこちらに視線を寄越している。その視線はアブソルを見ていて、私は少し不愉快だった。
『結月』
アブソルが私を呼ぶ。
『結月が怒ることはねえよ』
そうやって笑うアブソル。私はいつの間にか顔を顰めていたらしい。いやそりゃ、アブソルの図鑑説明知ってる人なら腹立つでしょ。
「……アブソルへの偏見は、まだ完全には無くなっていない。結月ちゃん、アブソルを守ってあげてね」
ダイゴさんが、私の肩を叩いて優しく言った。
「とにかく、アブソルを一度預けてあげよう。ジョーイさんにボールを渡して」
「あ、はい」
私とアブソルは、奥のカウンターに進む。
「アブソル、ボールに」
『おう、また後でな』
カウンターの手前でアブソルをボールに戻し、カウンターの前に着いた。
「こんにちは! ここではポケモンの体力を回復します。あなたのポケモンを休ませてあげますか?
「はい、お願いします」
私は、ピンクの髪のジョーイさんにフレンドボールを渡す。
「かしこまりました! トレーナーカードも提示していただけますか?」
「はい」
バックに入っていたカードを見せると、ジョーイさんはにっこり笑ってお辞儀をした。
「では、回復が済みましたら放送でお呼びしますね」
ジョーイさんは、フレンドボールの載ったトレーを隣にいたラッキーに渡す。ラッキーはカウンターの奥に歩いていった。
「ジョーイさん、彼女は新人なんだ。施設の説明もお願いしていいですか?」
私の後ろでラッキーが去っていくのを見ていたダイゴさんが声をかけた。
「あら、だからアブソル一匹だったんですね。では、この施設の説明をさせていただきますね!」
ジョーイさんはまたにっこり笑って、説明を始めた。

ジョーイさんの説明を要約すると、ポケモンセンター略してポケセンはトレーナーにとって楽園のような施設だった。
まず、ポケセンはバトルで傷ついたポケモンの回復以外にも、病気の治療も行う病院としての側面を持つ。しかし、ポケセンには、もう一つ、「トレーナーの拠点」という大事な側面もある。カフェテリア、たくさんの宿泊部屋、バトルフィールドなどが併設されており、いずれも、トレーナーカードを提示すれば無料で利用できるという。至れり尽くせりだ。
ゲームでもお馴染みの、ポケモンや道具を預けるパソコンも設置されており、トレーナーカードを読み込ませれば、30分間無料で使えるという。

「つまり、トレーナーが困った時はポケモンセンター、ってことですね」
「ええ、いつでも頼ってくださいね!」
説明を聞き、呟いた私に、ジョーイさんが頼もしい言葉をかけてくれた。
「じゃあ、ボクと彼女の宿泊申請もお願いできますか?」
それを見ていたダイゴさんが、話を進める……って、あれ?
「ダイゴさん、泊まるんですか?」
「ああ、君を放っておけないから」
ダイゴさんはなんでもないように言う。なんか申し訳なくなってきた。
「別に、ボクが好きでやっていることだから、結月ちゃんが気にする必要はないよ」
私の心を読んだように、ダイゴさんは笑う。これはお言葉に甘えるしかない。教えてもらえることは教えてもらおう。
「あらあら……お二人は、同室で良かったですか?」
ジョーイさんが、意味深な笑みを浮かべて訪ねてきて、私は顔に熱が集まるのを感じた。イケメンと同室で寝泊りなんて、私には刺激が強すぎる。
「べ、別室でお願いします!!」
私が慌てふためくのを見て、ダイゴさんとジョーイさんが微笑ましげにこちらを見た。二人していい性格してやがる!

「次は、一度パソコンを使ってみようか」
受付で騒いでいるうちに、ラッキーがアブソルのボールを持って戻ってきた。ダメージらしいダメージの無いアブソルの回復は、早く終わったらしかった。
私はアブソルをボールから出して、彼の頭を撫でてやる。アブソルは嬉しそうに笑った。
ダイゴさんは、カウンターの横にある机に、私を導いた。そこには、私の世界のものとそう変わらない形状のパソコンが置いてあった。
「ここに座って」
ダイゴさんは、私を、机の前の椅子に座らせる。
パソコンの画面には、「トレーナーIDを入れてください」という文字と入力欄が映っていた。
「トレーナーIDは、カードに書いてあるよ」
ダイゴさんの言葉に従って、カードに書かれたIDを入力すると、画面が移り変わり、「マユミのパソコン」と書かれたリンクが現れた。
「ポケモンの預かりシステムさ。結月ちゃんはまだボックスを使う必要はないけど、手持ちのポケモンのステータスは、ここで見れるから、覚えておいて」
ダイゴさんの説明を聞きながら、リンクをクリックすると、ボックスの様子と、手持ちポケモンのリストが現れる。ボックスはもちろん空っぽ、手持ちポケモンリストには、アブソルの画像だけが載っていた。私は、アブソルの画像をクリックする。また画面が移り変わり、アブソルのステータスが現れた。
「レベル50……あんた結構強いんだね」
『まあ、俺もあちこちふらふらしてたしなあ』
アブソルと話しながら、次は、「特性」と書かれた欄を見た。
「強運、か……」
「攻撃が急所に当たりやすくなる特性だね。バトルできっと役立つよ」
ダイゴさんが解説してくれる。
アブソルの特性は、「強運」か「プレッシャー」で、夢特性も「正義の心」だ。強運が一番バトル向けなのでありがたい。アブソル最高。

「ポケモンセンターの使い方はわかったかい?」
「はい。ダイゴさん、ありがとうございます」
パソコンから離れ、次は併設の宿泊棟へ向かう。アブソルを返してもらう際に一緒に貰った鍵についた番号の部屋の前に着くと、ダイゴさんが尋ねてきた。
私は素直にお礼を言って、頭を下げる。ダイゴさんは優しい笑みを崩さずに言う。
「また夕飯の時に落ち合おう。それまで休んでいるといい」
そうしてダイゴさんは、隣の部屋のドアを開けて、中に消えていった。
「ふう……」
ようやく休める。私は、鍵を開けて、のろのろと部屋に入ったのだった。



prev | next