- ナノ -

パートナー


握手を交わした後、ダイゴさんは顎に手を添え、考え込む仕草をする。
「結月ちゃんがトレーナーとして旅をするなら、近くの街でトレーナーカードを発行しないといけないんだけど……」
「あ、トレーナーカードならあります。なんかディアルガとパルキアが用意した荷物の中に……」
「ああ、そういえばディアナちゃんも最初から持ってたなぁ。トレーナーカードがないと、ポケモンセンターとかを無料で利用できないから、無くしちゃダメだよ」
ダイゴさんが優しく忠告してくれるのを聞きながら、私は隣のアブソルを盗み見る。アブソルはどうやらダイゴさんが気に入らないらしく、ムスッとした顔で彼を見ていた。
「トレーナーカードがあるなら、あとはパートナーとなるポケモンだね」
それを知ってか知らずか、ダイゴさんは話を続ける。パートナーとなるポケモン。この世界で生きるために必要な運命共同体。
しかし、私は、パートナーにしたいポケモンをもう決めていた。
「ミシロタウンのオダマキ研究所に連絡するかい? それか、ブリーダーに直接……」
「ダイゴさん、その前に、私、やりたいことがあります」
ダイゴさんがこちらを見るのを確認して、私は静かにしているアブソルを呼んだ。
「アブソル」
『ん?』
こちらを見るアブソルに向き直り、私は、息を吸って、勢いのままに言った。
「私の、パートナーになってください」
アブソルに向かって頭を下げる。ダイゴさんもアブソルも黙っているのをいいことに、私は続けた。
「あんたの優しさにつけ込むような頼みで、図々しいことはわかってる。だけど、私はあんたの優しさに救われて、こうしてダイゴさんにも会えた。あんたが一緒なら、私、頑張れる気がするの。この世界のこと、何もわからない。あんたに返せるものもない。だけど、あんたと旅がしたい! 私に愛想が尽きたら、見捨ててくれて構わない! だから……!」
そこまで言ったとき、アブソルが動く気配がした。草を踏む音がして、アブソルの白い毛が視界の端に映る。そして、この世界で初めて感じた感覚を、頬に感じた。湿ったものが、頬を撫でるその感覚は、アブソルが私の頬を舐めていたときのものだとわかった。
「アブソル……」
『結月、顔あげろよ』
アブソルに従い顔を上げると、彼は優しい笑みを浮かべていた。
『驚いた。ポケモンに頭下げる人間なんて初めて見たぜ。そんな風に頼まれたら、断れねえよ』
「え……」
『まあ、出会ったのも何かの縁だ! 俺、結月に着いてくぜ!』
にっこり笑って、アブソルは私の願いを叶えてくれた。私の我儘に、この優しい子は、応えてくれた。
「ありがとう、アブソル!」
嬉しくて嬉しくて、私はアブソルのふわふわの身体に抱きついた。アブソルも、私の顔に頬擦りしてくる。
「どうやら、アブソルは君を認めてくれたみたいだね。ポケモンに頭を下げる人なんて初めて見たよ」
黙って成り行きを見ていたダイゴさんが、微笑ましいと言わんばかりの調子で声をかけてきた。アブソルと同じこと言ってる。
「アブソルが優しい子で良かったです」
私が答えると、ダイゴさんは、懐から何かを取り出し、私に差し出した。
「お祝いだよ。仕事でジョウト地方に行った時に貰ったものなんだけど、君たちの門出にはぴったりだ」
見ると、それは上半分が黄緑色のモンスターボール。私は、これをゲームで見たことがある。
「これ、フレンドボール……」
ジョウト地方のボール職人・ガンテツさんしか作れない、ポケモンが懐きやすくなる特別なボール。
「アブソルと、ベストフレンドになってあげてね」
「……ありがとうございます!」
私はダイゴさんに深々と頭を下げた。あのバカ神の施しのボールに入れるより、お祝いのフレンドボールの方が絶対にいい。
私は、アブソルにボールを差し出す。アブソルは、ボールのスイッチを押して、中に入って行った。
「……よし! 頑張って旅しますか!」
そうやって気合を入れ直す。と、アブソルがボールから出てきた。
『じゃあ、早くヒワマキシティに行こうぜ!』
「あ、うん。ダイゴさん、色々ありがとうございました。私たちは街に……」
「いや、ボクも一緒に行くよ。なんか、ほっとけないしね」
……なんでダイゴさん、こんなに優しいんだろうか。
私はそんなことを考えながら、ダイゴさんとアブソルと並んで歩き始めた。



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