- ナノ -

銀髪の人


銀色の髪に、上等なスーツ。整った顔立ち。
どこからどう見てもホウエン地方のチャンピオン、ダイゴさんが、私たちの前に立っている。まさしく大誤算だ。
そんな下らないダジャレは置いといて。
「あ……こんにちは」
なんとか声を絞り出す。ダイゴさんは微笑んだまま、私から視線を外した。視線の先には、アブソル。姿勢を低くして唸っているアブソルを、ダイゴさんは微笑みながら見ている。あ、もしかして、気を悪くした?!
「あ、アブソル! 失礼でしょ!」
『ダメだ! いきなり近づいてくるような奴だぜ! 怪しいに決まってる!』
「でも……!」
「ああ、構わないよ。いきなり話しかけてすまない。君のアブソルが警戒するのも当然だ」
アブソルと口論になりかけたところに、ダイゴさんの穏やかな声が響く。
「ボクはダイゴ。君がこんな狭いところで座り込んでいたから、気になって見に来たんだ。体調が悪い、とかではなさそうだね。アブソル、びっくりさせてごめんよ」
優しく話しかけられて、ようやくアブソルは威嚇の姿勢を解いた。バツの悪そうな顔をしている。ダイゴさんが紳士的で良かった。
「えっと、私は結月です。疲れたので少し休んでいました。紛らわしいことをしてごめんなさい」
私も頭を下げる。そりゃあ、もう少し開けた場所で休憩するのが普通だよね。ダイゴさん優しいな。
「ところで、そのアブソル、随分と君に懐いているね」
そして、どうやらダイゴさんは、まだ会話を続ける気らしい。あ、もしかしたらこれ、うまいこと助けを求められるんじゃないか?
「あ、いえ、この子は私のポケモンではないんです。すごく優しい子みたいで、道案内をしてくれてるんです」
そういうと、ダイゴさんは訝しげな顔をした。
「アブソルが? アブソルは人間嫌いな個体が多いと聞いたけど、珍しいこともあるんだね。」
『アブソルにだって色々いるっつーの!』
アブソルが文句を言う。
「でも、アブソルに頼らずとも、君の手持ちポケモンでも、方角くらい把握できるだろう?」
多分ダイゴさんにはアブソルの言葉は通じていないのだろう。続けて疑問を口にする。なんか誘導尋問されてる気分だ。まあ、都合がいいけど。
「えーっと、実は、私、ポケモン一匹も持ってなくて……」
そうやって言うと、ダイゴさんは今度こそ驚いた顔をした。
「ポケモンを持っていない?!どうやってここまで来たんだい?!」
さて、ここまでは想定内。後は適当な言い訳をして同情を買おう、なんて、考えた瞬間だった。
『結月を助けてやってくれよ!!』
アブソルがそう叫んで、ダイゴさんの周りをくるくる回り始めた。ダイゴさんは、突然のことに目を丸くした。
「ちょっと、アブソル!?」
『結月は、神様の身勝手でここに来ちまったんだ!身寄りも行く場所もないんだよ!結月と同じ人間なら、結月が生きていけるようにしてくれよ!』
アブソルは必死にダイゴさんに訴えている。でも……。
「アブソル、落ち着いて。アンタの言葉は、多分ダイゴさんには伝わってないから。アンタ人語話せないって自分で言ってたじゃん」
『あ……そっか、結月が特別なんだ……』
アブソルがしゅんとする。私はダイゴさんに向き直り、無礼を詫びようとした、が。
「……さっきの言い方だと、まるで、君はこのアブソルの言葉を理解しているようだね」
ダイゴさんは、笑みを絶やさずに言った。一番やばいところを突いてきた。オワタ。
「え、えーっと……」
「もしかして、君も
・・
ポケモンと会話ができるのかい?」



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