- ナノ -

道路に出る


「アブソル、ここってどこの地方?」
『ホウエン地方。こっからだと、ヒワマキシティが近いかな』
「ツリーハウスのところ?」
『うん』
そんな会話をしながら、アブソルの後ろを歩く。
薄暗い森の中、一人なら不安だったろうが、アブソルがいると安心だ。
『とりあえず、人間が通る道路まで出ようぜ。その方がお前も歩きやすいだろ?』
「うん、そうしてくれると助かる」
アブソル、本当に気が利くし優しいな。ちょっと息が切れてきたが、頑張って歩こう。


「ぜえ、ぜえ、はあ、はあ……」
『大丈夫かよお前』
小一時間ほど歩いて、ようやく開けた場所に出たが、そのころには、私は疲れ果てていた。周りには背の高い草むらがあるし、すぐ目の前は崖で、その下には川が流れている。どうやら、ここは119番道路らしい。ヒンバスが釣れるとこだな。
『少し休もうぜ』
「ごめんね、アブソル」
『謝んなよ、人間の体力はポケモンとは違うから』
優しいアブソルは、芝生の上に座って、私にも休むよう促す。私もお言葉に甘えて、アブソルの隣に座った。
休むついでに、荷物を調べてみようと、肩掛け式のバッグを下ろして、中の物を手当たり次第取り出していく。バッグは、見かけによらず容量があるようで、たくさんの荷物がホイホイ出てきた。
「こんなにたくさん、この小さな鞄に入るのかな?」
『多分このバッグ、四次元バッグだな。見た目は小さいけど、いくらでも入るんだぜ!』
なるほど。ゲームで主人公が、小さなバッグでたくさん道具を持ち歩けたのは、四次元バッグだったからか。ポケモン世界の科学力はすごいな。

ポケモン世界の科学力に感心しながら、荷物の確認をした。
私の顔写真付きのトレーナーカード、それなりのお金が入った財布、モンスターボール6個、傷薬6個、着替え数着、野宿用の寝袋とテント、野営用の調理器具、ケータリング食などの食料、タオル数枚、ポケットティッシュ。以上。
野垂れ死なないような最低限の荷物は確かにあった。お金もあるし、アブソルに街まで連れて行ってもらえれば、なんとかなりそうな気がする。気がするだけでプランはない。
食料として入っていたカ○リーメイト的なクッキーを開封し、一個を、食料の匂いを嗅いでいるアブソルにあげて、私ももう一個を齧る。アブソルはにこにこしながらクッキーを咀嚼している。かわいい。
クッキーを飲み込むと同時に、甲高い鳴き声が降ってきた。
慌てて上を向くと、大きな鳥が上空を飛んでいた。どうやら鳴き声は、あの鳥のものらしい。
アブソルも気付いて、私の前に立って身構えた。低い唸り声が聞こえる。アブソルが威嚇しているらしい。
頭上では、鳥が旋回を始めた。
「アブソル……」
『あれはエアームドだ。なんでだか知らねーけど、こっちに降りてくる!』
アブソルが、旋回しながら近づいてくるエアームドを見てさらに唸る。私はというと、エアームドに、誰かが乗っているのに気付いた。
「アブソル!誰か乗ってる!」
『警戒を解くなよ!この世界に来たばかりのお前に近づこうとしてるんだぞ!』
そんな話をしてる間に、エアームドが私たちの前に降りてきた。その背に乗っている人の顔を見て、私は固まってしまった。
「やあ、こんにちは」
銀髪が、揺れた。



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