- ナノ -

状況整理


私がアブソルが喋る理由について尋ねると、アブソルは訝しげな顔をした。
『お前何言ってんだよ。俺は人語なんて喋れねー……って、さっきからなんか会話成立してるもんな!』
「お互い気づくのが遅いね」
『んー……お前が俺の言葉を理解してるんじゃね?』
「あー、その可能性が高いね」
ポケモンの言葉を理解する。夢小説ではよくあることだが、ディアルガとパルキアが私にこの能力をつけてくれたとは考えにくい。じゃあどうして……。
『また難しい顔してる。お前どうしたんだ?』
アブソルの声で我に返った。とりあえず、今頼りになるのはアブソルだから、彼に色々訊いてみよう。
「ねえアブソル、ちょっと訊いていい?」
『ん?』
「どうして私に対して優しいの?」
夢小説では、アブソルという種族は人気だが、人間嫌いのツンデレとして書かれていることが多い。この子はなんか、気がいい感じがする。
『森の中歩いてたらさ、いきなり何もない場所が光って、お前とカバンが落ちてきたんだよ。だから、なんか訳ありなのかなーって』
「それだけで?なんか、アブソルって、人間嫌いなイメージあるんだけど」
『うーん、確かに仲間の中には、人間嫌いな奴もいるよ。災いの原因にされて迫害されたって。だけど、俺は基本的に人間が好きだよ。人間って悪い奴なのかなって思って、旅しながら色々見てきたんだ。人間にもいい奴悪い奴がいるし、人間は非力だからこそ、災いに怯えてるんだ。そういうところも愛おしい。それに、もともと俺たちは人間好きなんだよ。だから、災いを教えてきたんだ』
「アブソル……」
このアブソルはただの気のいい奴ではなく、色々考えて、それでも優しさを持てるすごい奴だということがわかった。
『俺のことは話したぜ。次はお前のこと聞かせてくれよ!』
アブソルが、キラキラした顔で見つめてくる。ここでうまく同情誘って、あわよくば人のいる場所まで案内してもらおうかな。
なんて考えながら、私は話し出した。
「私は結月。ポケモンのいない世界で、学校に通っていたの。」
そう言うと、アブソルは驚いた顔をした。私は気にせず続ける。
「私の住んでいた世界では、ポケモンはゲームの中の……架空の存在だった。ところでアブソル、ディアルガとパルキアって知ってる?」
『時間と空間の神様だっけ?』
「そいつらが、私と同じ世界に住んでた自分たちのお気に入りの子をこっちの世界に連れて来たときに、私も巻き込まれちゃって……帰ることもできずに放り出されちゃった」
『なんだよそれ!ひでえ!』
アブソルが悲しそうな顔をする。やっぱこいつ優しい。
「もう、多分元いた世界には帰れない。なら、ここで幸せになってやろうって決めたの。」
そこまで話しても、アブソルは納得言ってないようだ。
「あんたがそんな顔することないじゃん。」
『だって……』
アブソルはしゅんとする。邪なこと考えてたのが恥ずかしくなるピュアさだ。
「あー、それでさ、アブソル、あんたさえ良ければ、私を人のいるところまで案内してくれない?私は森では暮らせないから。」
そう言うとアブソルは、ぱっと顔を上げた。
『いいぜ!そういうことなら、街まで案内してやるよ!』
アブソルは元気よく返事をしてくれた。良かった。
とりあえず、ポケモンセンターとか研究所とかに連れて行ってもらえば、これからのことを相談できる大人がいるはずだ。
私はカバンを拾い上げ、アブソルの後に続いて歩き出した。



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